【セッションレポート】EMERGENCE #4 —ライフサイエンス分野のスタートアップを支援する、インキュベーター・アクセラレーターの現在と未来

「Connecting the dots. — 最先端のサイエンスとテクノロジーで、皮膚疾患患者さんによりよい明日を。」をミッションに掲げるLEO SCIENCE & TECH HUBの支援のもと、ライフサイエンスに関わるセッションシリーズ「EMERGENCE — Creating the future of Japanese Life Science Ecosystem」の第4回セッションが2020年7月2日にThursday Gathering(開催:Venture Café Tokyo))において開催されました。

当日は、”インキュベーター・アクセラレーターから学ぶ、ビジネスデベロップ面とのポイント-ライフサイエンス編“というテーマのもと、ゲストスピーカーをお招きし、日本国内のインキュベーター・アクセラレーターの取り組みや成果とともに、今後の課題について議論を深めました。

◆EMERGENCE — Creating the future of Japanese Life Science Ecosystemについて

科学は社会の発展の礎です。日本の基礎研究力は世界的にも高いものがありながら、研究者のキャリアパスの在り方や大学発イノベーションを産業化する方法論の欠如など、持続可能な形で研究をし、その成果を社会実装する体制が整っているわけではありません。少子高齢化という大きな課題に世界のどの社会よりも早く直面する日本においては科学の活用が欠かせません。また、ヘルスケア分野におけるデジタル技術との融合は大きなチャンスでもあり、世界からの日本に対する期待も高いものがあります。

そこで、EMERGENCEでは、定期的にライフサイエンスのキーイノベーターをお呼びし全員で議論を深めることで、日本のライフサイエンスの未来を創るムーブメントとコミュニティを創出することを狙いとします。

日本のインキュベーター・アクセラレーターの現在とこれから

<インキュベーター・アクセラレーターの役割>

ライフサイエンスが発展するためのサイクル「イノベーション・エコシステム」。その中で、起業家が卵の殻を破って自立していくまでの間、育てる役割を果たすのがインキュベーターやアクセラレーターです。

日本のエコシステムを世界に注目される存在にしていくためには、この「育てる」役割の人たちがキーパーソンとなり、エコシステムを構成するあらゆる立場の人をいかにマッチングさせていくのか、あるいは交流・連携の場やコミュニティを作り出すかが問われています。例えばアカデミアの技術を事業化したい経営人材、ディープテック分野へ投資できるベンチャーキャピタル、アーリースタートアップとのコラボを模索したい大企業、産学連携による活性化に期待する自治体など、国内ではまだまだ未発掘ともいえる人材や組織を集積し結びつけることで、すばらしいイノベーションを起こせる可能性が大きく広がっていきます。

今回のセッションでは、これらの人材や企業をつなぎコミュニティを醸成していくミッションを掲げ、東京都心と湘南に拠点を構える3つのインキュベーター・アクセラレーターから、3名の方にご登壇いただき、現状と課題について共有していただきました。

<インキュベーター・アクセラレーターの現在>

現在、湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)やCICのようなインキュベーター、そして国やベンチャーキャピタルが、インキュベーター・アクセラレーターとして様々な活動を通じてスタートアップの成長を促す取り組みを行っています。

事業化に向けた支援では「Blockbuster TOKYO」のように、東京都が主催しBeyond Next Venturesが運営する創薬・医療系のベンチャー育成プログラムなどがあげられます。事業計画の作成や特許戦略など、事業化に向けて検討すべき点を支援するプログラムが提供されています。

また、コラボレーションを生み出す場所や機会の提供も始まっています。2018年にオープンした湘南アイパークでは、約100社の企業や団体が一施設内に集結。スタートアップのみならず、大企業やサプライヤー、投資家や特許事務所などが同じ場所に集まることで、コラボレーションが積極的に生み出されています。

創薬やバイオ、ヘルスケア分野を支援するインキュベーター・アクセラレーターの特徴として、2つの点で特徴的な支援があげられます。1つは、スタートアップが将来的にライセンスアウトを目指すことを念頭に、大手製薬会社や医療機器メーカーとのネットワーキングや協業を創業初期からアクセラレーターが支援するケースです。そして、もう1点は、海外プレイヤーとのネットワーキングです。理由は、前述のアウトライセンス先の候補として海外プレイヤーが重要であること。そして、海外からの投資がスタートアップの成長にとって重要であることです。アメリカボストンで創業し、現在世界中で活動するイノベーションコミュニティCICが今年、東京に進出。海外に対するコネクティビティの強化という点で、ライフサイエンス分野のスタートアップにとっても魅力的なコミュニティへのアクセスのしやすさが生まれています。

<インキベーター・アクセラレーターのこれから>

本セッションでは、今後のスタートアップの成長を支援する上で、日本のコミュニティに不足している点についても指摘が行われました。まず、スタートアップの成長をリードできるメンターが少ない点。スタートアップで活躍した人材が国内にはまだ少ないため、国内にとどまらず海外のスタートアップ経験者をメンターとして迎えるなどの工夫が必要であること。また、大学に有望な研究者が多く存在していますが、研究費や研究施設、事業化に向けた機会が不足していることなどがあげられました。有望な研究への資金供給とともに、研究者が投資会社やアクセラレーターと接しやすい環境づくりが模索されています。そして、大手企業とスタートアップの協業が、より活発になることが期待されています。前述のようにスタートアップが集積する場や、イベントなどが増加していますので、そのような場へより大手企業が参加し、両者がコミュニティ内でより親密な関係を構築し、協業などに発展する機会の創出が期待されています。

◆当日登壇されたスピーカーのご紹介

盛島 真由氏 Beyond Next Ventures

200億円のファンドを運営してヘルスケア領域のスタートアップへの投資業務を行う。さらにイノベーション・エコシステムの醸成を目的に、東京・日本橋にあるシェアウェットラボ「Beyond BioLAB TOKYO」の運営、スタートアップの経営人材を支援する取り組みや、「Blockbuster TOKYO」などのアクセラレータープログラムを行っている。

小木曽 由梨氏 湘南アイパーク

元は武田薬品工業株式会社の湘南研究所だった場所をサイエンスパークとして運営。湘南を世界のスタートアップエコシステムランキングのホットスポットにすべく、創薬やバイオ系のベンチャーのほか、大手製薬企業やサプライヤーなど多くの企業や団体を誘致。入居者同士のネットワークを構築し、コラボレーションを生み出すためのマッチングイベント等が頻繁に開かれている。

名倉 勝氏 CIC Japan

2020年秋、東京虎ノ門にオープン予定のイノベーションコミュニティCIC Tokyoを運営。単なる貸しオフィスではなく「世界につながるイノベーション発進基地」としてコミュニティを作り、幅広いベンチャーや起業家を支援することを目的とする。CICはアメリカを中心に世界に展開しており、CIC Tokyoは6000平米の面積をもつ国内最大級の都心型拠点となる。Venture Café Tokyoは姉妹団体。

・モデレーター 黒田 垂歩氏 LEO Science & Tech Hub

2004年から10年間、アカデミアでライフサイエンスの研究に従事した後(ハーバード大学医学部での7年間を含む)、2014年に大手外資系製薬企業に転職し創薬におけるオープンイノベーションを推進。2019年に現職に移り、皮膚科疾患の革新的ソリューションの創出を目指す組織を日本で始動させた。

◆三者三様な各インキベーター・アクセラレーターの取り組み

<Beyond Next Ventures>

盛島氏:ヘルスケア分野を中心としたインキュベーション投資、シェアウェットラボの提供などの設備・インフラ支援、アクセラレーションプログラム運営による事業化・成長支援、イノベーションリーダーズプログラムの提供による経営人材支援の4つがコア業務。その中でも本日は2つの取り組みについて紹介する。まずシェアウェットラボ「Beyond BioLAB TOKYO」は、日本橋ライフサイエンスビルの地下1階、元アステラス本社の食堂を改装してラボにしている施設。P1、P2レベルの実験が可能なラボ、オフィススペースがある。入居者以外の方も交えたテーマ勉強会やイベントは大盛況である。アーリースタートアップの入居が多く、機材のシェアや意見交換、お互いの人的ネットワークの活用などによってイノベーションの加速を促進している。

続いて「Blockbuster TOKYO」は、都が主催し、弊社が事業会社やVCと連携して運営する創薬医療系のアクセラレータープログラム。海外のVCからの資金調達、海外との共同研究やライセンスアウトを主眼に海外のメンターから助言を受け、英語でのアピールをトレーニングする。さらにフィードバックに基づいた研究開発計画や事業化計画のブラッシュアップ、費用支援、人材マッチングなどのサポートを選抜された20チームに対して行っている。

<湘南アイパーク>

小木曽氏:湘南アイパークのミッションは、加速(Acceleration)、醸成(Incubation)、発展(Development)、協力(Collaboration)の4つを柱とし、「世界に開かれたライフサイエンスエコシステムの構築」をすること。武田薬品工業が湘南研究所を開放することにより設立された、企業発のサイエンスパークであり、武田薬品工業が事業のパートナー探しをするために設立したと思われがちだが、目的はあくまで入居者同士のコラボレーションからイノベーションを起こすこと。

スタートアップみならず、大企業やサプライヤー、投資家や特許事務所など、約100社の入居、メンバー企業が集積し、2000名を超えるコミュニティが形成されている。経営陣クラスのネットワーキングのためのLeader’s Clubのほか、さまざまなイベントを企画している。また、現場研究者が立ち上げた有志の集まり Science Café や、入居企業が主催するイベントなども盛んに行われており、コロナ前はリアルで、with コロナになってからはオンラインで、週3~4回イベントが実施されている。この1年で協業件数は143件、昨年比で10倍のコラボが生まれた。今年の秋にはiPark Virtual Partnering Systemをリリース予定で、システム上で各社にコンタクトやスケジューリングができるようになる。

湘南アイパークには少し成長してきたベンチャーや大企業が集まっていることが特徴。大企業としては、田辺三菱製薬やライオン、あすか製薬などが入っている。またテナントではなくメンバーとして参画している企業には、第一三共、アステラス、ファイザーがある。

<CIC Tokyo>

名倉氏:CIC(ケンブリッジ・イノベーション・センター)は、MITやハーバード大学も本部を置く米国マサチューセッツ州ケンブリッジ市で創業し、世界9都市に展開する都心型の大型イノベーションセンター。そのアジア初の拠点となるCIC Tokyoは「世界につながるイノベーション発進基地」として、日本、東京がエコシステムとして国際化していくことに貢献する。アジアの拠点として発信すると同時に、世界からアジア市場を目指して進出してくるベンチャーにも参画してほしいと思っている。

対象企業をライフサイエンス分野に限らず、あらゆるプレイヤーが集積することでクロスインダストリーのコラボレーションを作りイノベーションを起こす。施設は建築家・小堀哲夫氏の設計で、調和、協調を取り入れ、働きやすさやコラボレーションの創出に寄与するデザインであり、偶然の出会いを生む仕組み。コワーキングスペース100席、160室の個室がある巨大空間。200~300のベンチャーが入居可能で、問い合わせなど多数反響をいただいている。投資家の方、大企業、官公庁関係者にも加わっていただきたい。

◆それぞれの強みを活かし『首都圏を大きなエコシステムに』

<運営するインキュベーション施設で、どのような成功事例が出ていますか>

小木曽氏:湘南アイパークでは、スタートアップとともに、大企業の参画が増えている。そして内部で約140件のコラボレーションが生まれているが、ベンチャーと大手企業はもちろん、大手企業同士でもコラボレーションが発生している。

盛島氏:シェアウェットラボ「Beyond BioLAB TOKYO」は都心の小規模施設のため初期のスタートアップが多い。入居するスタートアップは、お互いの知見や、保有する人的なネットワーク、そして機材の活用など、かなり親密にコラボレーションが進んでいる。このようなコミュニティがスタートアップにもたらす価値は非常に大きく、今後もコミュニティの運営を強化していきたい。

名倉氏:2020年秋の開業を予定しており、様々なプログラムを予定している。国際的なプロジェクトも複数ある。現在、海外から東京への注目度が上がってきており、東京のエコシステムが世界から注目されるためにも、皆さんの積極的なご参加をぜひお願いしたい。

<三者三様の特徴を組み合わせて、首都圏を大きなエコシステムに>

盛島氏:Beyondは都心の小規模施設のため動物実験などが出来ない。動物実験ができるなど、湘南アイパークは素晴らしい環境などがあると考えており、スタートアップが各フェーズで必要な施設をうまく利用する流れが可能になってきていると思う。

小木曽氏:アイパークは、事業が拡大してきたスタートアップが大企業とコラボを強化する際に、強みがある。一方で、投資会社、コーポレートベンチャーは都心に集まる傾向があり、湘南は少し遠い。ただ、私自身はGreater Tokyoという視点でエコシステムを湘南からも盛り上げていきたい。

名倉氏:CICはラボがないため、ラボが必要な方はBeyondBioLAB TOKYOやアイパークでラボを構えていただきたいが、一方で異業種交流や投資家との交流、海外との接点を生み出すには強いと思う。また、日本国内の東京以外に本社を構える企業の東京オフィスとして利用してもらえれば、様々なネットワークを獲得する点でもメリットがあると思う。強みの異なる三者が連携し、全体としてエコシステムを盛り上げていければ。

<さらなる飛躍に向けて>

盛島氏:いつも課題になるのは経営人材、メンター、資金。日本の起業家もアカデミアも優秀ですばらしいが、そのマッチングの面でうまくガイドしてくれるメンターが不足している。日本のメンター層を強くしたい。またディープテックに投資するベンチャーキャピタルが少ないので、インターネット分野などへの投資家や海外のベンチャーキャピタルと連携したい。

小木曽氏:アイパークでは投資会社、アーリースタートアップとの連携が課題。そのため、大学の研究者やアーリーな起業家をサポートするプログラムを予定している。大手製薬がスポンサーとなり資金を提供し、アイパークが場所を提供していく。

名倉氏:CICのコミュニティに、もう少し大企業が関心をもらえたらと思っている。スタートアップの情報をとるだけでなく、積極的に協業などを仕掛けて頂きたいと考えていきたい。

◆当日のセッションを振り返って

イノベーション・エコシステムに欠かせない存在であるインキュベーター・アクセラレーター。オンラインのセッションでしたが、登壇者の乾杯!から始まって、さらに参加された方々から積極的な質問もいただくなど熱気あふれる時間となりました。登壇された各インキュベーター・アクセラレーターのお話を伺う中で、お互いの取り組みにリスペクトがあり、また日本のエコシステムの活性化に向けて非常にコラボレーティブな姿勢を感じました。今後、個々の特徴的な活動が益々洗練されていくと共に、各々の連携が生まれていく未来が楽しみです。

次回のEMERGENCEは「皮膚から考えるイノベーションの可能性」と題して10月1日(木)19:00–20:00 (オンライン)に開催します。中島沙恵子氏(京都大学大学院医学研究科皮膚科・講師)、Ako Ryotaro(アトピヨ 開発者)、黒田垂歩氏(モデレーター・LEO Science & Tech Hub)でお送りします。ぜひ、奮ってご参加ください。

参加申し込み:https://thursdaygathering-20201001.peatix.com/

執筆協力:upto4 (→link: https://www.upto4.com/home)

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