【セッション・レポート】EMERGENCE #6 皮膚疾患へのチャレンジ!イノベーションの可能性を模索する

「Connecting the dots. — 最先端のサイエンスとテクノロジーで、皮膚疾患患者さんによりよい明日を。」をミッションに掲げるLEO SCIENCE & TECH HUBの支援のもと、ライフサイエンスに関わるセッションシリーズ「EMERGENCE — Creating the future of Japanese Life Science Ecosystem」の第6回セッションが2020年10月1日にONLINEにて開催されました。

当日は、“皮膚から考えるイノベーションの可能性”という題して、ゲストスピーカーと共に、なぜ皮膚科学なのか、そこからどのようなイノベーションを生み出すことができそうか、議論を深めました。

◆EMERGENCE — Creating the future of Japanese Life Science Ecosystemについて

科学は社会の発展の礎です。日本の基礎研究力は世界的にも高いものがありながら、研究者のキャリアパスの在り方や大学発イノベーションを産業化する方法論の欠如など、持続可能な形で研究をし、その成果を社会実装する体制が整っているわけではありません。少子高齢化という大きな課題に世界のどの社会よりも早く直面する日本においては科学の活用が欠かせません。また、ヘルスケア分野におけるデジタル技術との融合は大きなチャンスでもあり、世界からの日本に対する期待も高いものがあります。

そこで、EMERGENCEでは、定期的にライフサイエンスのキーイノベーターをお呼びし全員で議論を深めることで、日本のライフサイエンスの未来を創るムーブメントとコミュニティを創出することを狙いとします。

◆なぜ、皮膚科学なのか?

<皮膚の特徴>

皮膚は人体で最大の免疫臓器であり、私たちが自分の目で見ることのできる最も身近な臓器と言えます。皮膚は表皮、真皮、皮下組織の3層構造になっており、その大きさは表面積畳1畳ほどにもなり、重さは体重の16%にも達します。

皮膚には免疫細胞が常駐しており、さまざまな免疫応答や恒常性維持を行うことで、体内を守るバリアの役を果たしています。汗や皮脂を分泌したり、汗による体温調節をしたり、触覚などの知覚を行う大変重要な器官だと言えます。

<皮膚疾患の現在>

そんな皮膚におこる皮膚疾患は、アトピー性皮膚炎、乾癬などを始め、3,000種類以上が知られています。しかも、有効な治療法があるものは多くないのが実情です。

現在、全人口の30~70%もの人が何らかの皮膚疾患を患っていると考えられています。そうした背景があり、皮膚科は年平均成長率11%、2030年の市場規模は6.7兆円になるとされ、ビジネスにおいても非常に重要な領域とみなされています。

◆当日登壇されたスピーカーのご紹介

中島沙恵子氏(京都大学大学院医学研究科皮膚科講師)

自身のアトピー性皮膚炎をきっかけに皮膚科医の道へ。主にアトピー性皮膚炎、薬疹の患者さんを診ながら、皮膚常在菌(細菌、ウイルス、真菌など、皮膚表面にマイクロバイオームを構成している常在微生物)や皮膚免疫の研究を行う。

Ako Ryotaro氏(アトピヨ代表)

元アトピー性皮膚炎患者。「アトピー見える化アプリ」として、アトピー患者向けのアプリ「アトピヨ」を企画・開発し2018年7月にリリース。アトピヨの運営・アドバイザーである妻のAkiko氏も元アトピー性皮膚炎患者(薬剤師)。

モデレーター 黒田 垂歩氏(LEO Science & Tech Hub ディレクター)

2004年から10年間、アカデミアでライフサイエンスの研究に従事した後(ハーバード大学医学部での7年間を含む)、2014年に大手外資系製薬企業に転職し、創薬におけるオープンイノベーションを推進。2019年に現職に移り、皮膚科疾患の革新的ソリューションの創出を目指す組織を始動させた。ヘルスケアおよびライフサイエンス系メンター・アドバイザーの役割を多数担う。

◆イベント「HACKING DERMATOLOGY」について

本セッションは、11月6日~8日にCIC Tokyoで開催予定のハッカソンイベントHACKING DERMATOLOGYのテーマを念頭に、同イベントに先駆けた内容として開催されました。

HACKING DERMATOLOGYテーマ:

4つの皮膚疾患…アトピー性皮膚炎/にきび/白斑/円形脱毛症

4つのチャレンジトピック…治療薬・治療方法/病気の指標(バイオマーカー)/身の回りのハック(食事、衣服など)/デジタルツール

皮膚疾患の患者さんの、よりよい生活のためのイノベーティブなアイデアを、参加者がチームを組み、ワークショップやディスカッションを通じてビジネスプランとして練り上げ発表するHACKING DERMATOLOGY。今回は、2018年にアメリカ・ボストンで開催されたハッカソンの日本版として実施されます。優勝チームは表彰され、登壇機会や事業化サポートの機会を得、また参加費無料ながら、参加者は皮膚科学というホットな領域での起業家体験、新しい出会い、4種類のワークショップなど、多彩なメリットを受けることが可能です。

◆皮膚科学のイノベーションの源泉はどこにあるのか

<臨床医の立場から>

中島氏:患者さんが皮膚科を訪れ、治療をしていくサイクルを見ていきます。

まず患者さんは皮膚トラブルが発生し、困った結果、病院に来ます。病院では診断をし、治療方針が決定されます。そして投薬やスキンケアの指導が行われます。薬局で薬が処方され、患者さんは自宅で治療を継続します。治療がうまくいけば治り、状態が悪ければまた病院を訪れます。

このサイクルのそれぞれのプロセスで、次のような問題が発生することがあります。

まず皮膚トラブルの発生により、QOLや社会活動性の低下が起き、なかには仕事や学校に行けずに引きこもる方も見られます。病院では、日本の保険診療の仕組みにより、一人の患者さんに十分な時間を割いてきめ細やかな説明や指導をすることができないため、医師・患者間のコミュニケーション不良が起きることがあります。さらに短い時間で医師が皮膚状態を客観的に評価することが難しかったり、精神的サポートも不十分になったりする場合があります。また、治療の選択肢不足の問題があります。

そして、患者さんは薬を処方されても、いわゆるアトピービジネスのようなものの情報をインターネットで得て、間違った知識を獲得し、それが治療に悪影響を及ぼすことがあり得ます。また、患者さん自身、薬が効いているかわからないことから、モチベーションを保ちながらのセルフケア継続が困難となる場合があります。

これらの一つひとつのプロセスの中に、イノベーションの源泉があると言えるのではないでしょうか。医療従事者、患者さんの生活の中の、いずれの側にも掘り起こしていけることがあると思います。

<「死にたい」とまで思い詰める、皮膚疾患患者さんを救うために>

黒田氏:中島先生の図を元にすると、患者さんにとっては自分の皮膚疾患が治るということがもちろん最高の状態なのですが、ソリューションという意味では、治らなくても患者さんの社会活動をサポートする方法もあると思います。例えば、「社会活動性の低下」ですと、アトピーがあるから最悪だ、学校に行きたくないという方が使える、オンラインなどで外見を気にしなくても社会活動ができるプラットフォームが作れれば、それが一つのソリューションと言えると思います。他にもいろいろな可能性が考えられると思いますが、日本初のアトピー専用の画像SNS「アトピヨ」を開発されたAkoさんは、「アトピヨ」でこんな課題が解決できた、ということはありませんか?

Ako氏:アトピヨ自体は医療行為をするものではないですが、ユーザー、すなわち同じアトピー患者さん同士が、コメント、応援マークを使ったコミュニケーションをすることで、それまで「死にたい」などと思い詰めていた方が前向きになるなど、QOLの向上では貢献ができていると思います。一方で、こうしたSNSでは、中島先生が指摘された「間違った知識の獲得」を防ぐことは苦手と言えるかもしれません。よかれと思って発信したことが他の人にはよくなかった、医師の指示に基づいていなかったということもあり得ます。なおアトピヨでは、ユーザーが自分の体験を発信するのは自由ですが、アトピービジネスなどにつながる可能性があることから、業者による発信は利用規約で禁じています。またアプリを利用すること自体が「セルフケア継続」へつながると思いますが、アプリ活用の最初の一歩が難しいのは事実です。患者さんは一般的に自分の皮膚を撮影するという習慣はありませんし、客観的に画像と向き合うのはつらいと感じる方もいらっしゃいますので。

黒田氏:中島先生は臨床医の立場から、どのようなソリューションを求められますか。

中島氏:臨床現場では、診療の時間が短くならざるを得ないことから、医師と患者さんがコミュニケーションを十分にとることや、すべての患部を入念に診ることが、現実的には難しい面があります。ですのでその助けになるようなツールなら、私個人としてはウエルカムです。デジタルツールにどういった可能性があるかもっと考えてみたいですね。例えばこの「アトピヨ」では画像の投稿ができるようになっていますが、そうした機能を利用してご自身で記録をとっていただけると、患者さんとの意識のずれを埋められると感じました。

Ako氏:アトピー以外の皮膚疾患、例えば円形脱毛症や白斑などでもイノベーションの可能性はあると思っていますが、先生から見てどういったアイデアが考えられるでしょうか?

中島氏:例えば円形脱毛症の大きさがどう変わったかを記録するのはよいと思います。臨床の現場では、症状がよくなっているかどうか、円形脱毛症の患部のサイズを診察の際に計測し、直径が何mmなど、カルテに記録をとって経過を見ていきます。このような古典的なやり方でしかフォローできていないのです。もし患者さん自身が、3cm→1.5cmになった、などアプリで客観的に日々の記録ができるなら、患者さん自身の治療へのモチベーションも上がっていくでしょう。

ちなみに白斑は経過がもっとわかりにくくて、白くなってしまった部分に、ぽつぽつと通常の色の皮膚が出てくると、よくなっているということなのですが、この経過を、短い診療時間の中で比べて判断することは非常に難しいと思います。こういった場面で、デジタルが活用できますね。医師も記録の人的エラーをすべて避けることはできないので、こうした記録のバックアップがあると助かります。

黒田氏:中島先生、他にもお困りのことがあればそれがイノベーションの芽となると思いますので、教えてください。

中島氏:臨床医としてもどかしく感じているのは、治療薬として処方できる薬剤の種類が非常に少ないなど、制度上の問題です。アトピーで言うと、治療薬として処方できる保湿剤がとても少なく、ワセリンとヘパリン、尿素くらいしかありません。しかも尿素は肌に刺激となることも多いので、私はあまり処方しません。しかしアトピー患者さんのための保湿の手段は他にもあるはずです。個人的には、メインの治療ではない部分で、病態にあった保湿剤をオーダーメイドで出せればと思います。海外で認可されている薬の処方や治療法を選択する医師もいますが、こちらは自費診療となります。ニキビも、日本は治療後進国ですね。治療効果がわかっていても国内での承認が遅い部分は、医師としてももっと働きかけていかないといけない部分です。

◆これからに向けて

中島氏:私からのメッセージは「皮膚×イノベーションの可能性は無限大」ということです。医療の世界にも、他分野からの意見やアイデアを取り入れてよりよい医療を作っていけたらと思います。

Ako氏:私がキーワードとしたいのは「継続」です。皮膚疾患にとって、治療の経過を継続して見ていくことは大変重要です。「アトピヨ」のユーザーさんも、アプリを継続して活用していく中で、ご自身で経過を観察して気づかれることが色々とあるのではないでしょうか。また、私自身の「継続」で言いますと、2018年7月の「アトピヨ」リリース以降、プレスリリースを毎月継続的に出すことで、メディアに掲載され、ユーザー数の増加につながっています。イノベーションには継続の視点が大切です。

黒田氏:皮膚疾患で困っている人がこれほどたくさんいる現状で、何かできることはないか?と考えるのは楽しいこと。イノベーションを楽しむ姿勢でイベントなどを企画していきたいと思います。

EMERGENCE第7回は「Hacking Dermatology Final Pitch Contest(仮)」と題して12月17日(木)19:00–20:00CIC Tokyoにて開催します。ぜひ、奮ってご参加ください。

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◎アトピー見える化アプリ「アトピヨ」について

日本初のアトピー専用の画像SNS「アトピヨ」は、2018年7月にApp StoreからリリースされたiPhoneアプリ。インスタグラムのような画像投稿をベースとし、アトピー患者の意見をヒアリングして作られた機能によりユーザーからの高評価を得ている。現在1.4万ダウンロードと、日本最大級のアトピーコミュニティを形成している。

公式サイト…https://www.atopiyo.com/

・アトピー患者が抱える課題

Ako氏:アトピー性皮膚疾患を抱える人は全国で600万人がいると言われています(全人口の5%)。社会的損失も700億円以上と巨額です。非常に精神的負担の重い病気で、アトピー患者の中でアトピーが辛くて死にたいと思ったことがある人の割合は13%にものぼります(2018年九州大学・中原剛士先生 患者300名調査)。就寝中、寝具や衣服に体液や血液が付着するなど、24時間かゆい、痛い、眠れないといった悩みを抱えています。また、自分ではよくなっているかはっきりとわからない、自信がもてない、相談ができないといった側面もあります。

・「アトピヨ」 の開発プロセス

開発は、2017年9月にアトピーに悩む患者さん100人超を対象にヒアリング、アンケートを実施するところから始めました。具体的には、課題インタビューでアトピー患者が抱える課題の掘り起こしをし、その後ソリューションインタビューとしてどのようなアプリなら、課題を解決できると思うかを聞きました。その後、アプリのモックアップを作成し12月プログラミング開始。半年ほど、プログラミングを学ぶ講座を受けながら開発を行い、2018年7月、開始から約10か月後にリリースしました。

・「アトピヨ」の3つの特徴

アトピヨは、日本初のアトピー専用の画像SNS(匿名・無料)として次のような特徴があります。

「ユーザー間サポート」…投稿に対して他のユーザー(=患者さん)がコメント、応援マークをつけることができます。アトピヨ内のコメント3,000件を分析した結果、ユーザー同士のコミュニケーションを通じて、ユーザーのポジティブな感情の割合が2倍以上に増加していることが確認できました。

「画像による症状記録」…同じ部位の現在と過去の2枚の写真を並べて記録することができます。これによって、症状の経過を把握することができ、重症化予防にもつなげることができると考えています。また、画像ごとに公開/非公開を選択することができます。

「アトピーデータ」…カテゴリごと、または、「赤み」などの症状、薬の名前などで、アトピーに関する画像を検索でき、日本有数のアトピーのデータベースとしての役割を果たしています。現在、アトピヨ内には、4千件のアトピー患者のプロフィールが登録されており、2.1万枚のアトピーに関する画像(うち1万枚は公開中)が投稿されています。

◎HACKING DERMATOLOGYのテーマ:4つの皮膚疾患について

<アトピー性皮膚炎>

肌のバリア機能に障害を起こし、外からの抗原や刺激が免疫細胞と結びつき炎症を起こす。湿疹とかゆみが慢性的によくなったり悪くなったりを繰り返す、コントロールの難しい疾患。ステロイド外用、薬物療法、悪化因子の除去が治療の3本柱。薬物療法の選択肢が近年ようやく増えてきた。

<ざ瘡(ニキビ)>

毛穴に皮脂がたまり、出口が角化し閉塞、あるいはアクネ菌が増えて炎症を起こす疾患。おでこや眉間、ほお、口回り、背中や胸などにできる。治療はさまざまな薬のほか、抗菌薬、ケミカルピーリング、漢方薬があるが、欧米に比べると治療選択肢が十分ではない。今後に期待される。

<白斑(尋常性白斑)>

皮膚のメラノサイトが何らかの原因で減少・消失し、皮膚の色が白く抜けてしまう疾患。メラノサイトに対するリンパ球の攻撃(自己免疫性疾患)ではないかと考えられているが、詳細なメカニズムは不明。薬の処方のほか、外科的治療を試みるが、治らない場合はファンデーションでカバーするしか方法がないことも。治療反応性が悪い場合、患者のQOLの低下が問題となる。

<円形脱毛症>

毛穴を免疫細胞であるリンパ球が攻撃することによって壊され、発症する自己免疫疾患の一つ。ストレスが原因となることも。ステロイド局所注射を行うなどがあるが、根本的・劇的な治療法は今の所ない。再発することも多く、患者のQOLも著しく障害される。

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執筆協力:upto4

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