HAPPEN #19: 大武 優斗さん(「あの夏を取り戻せプロジェクト」)
今回、ご紹介するのは大学生でありながら起業、さらにコロナの影響で失われた2020年の失われた夏の甲子園を取り戻そうというプロジェクトを立ち上げた大武優斗さんです。起業やプロジェクトの立ち上げ、運営などに関してはVenture Café Tokyoから多くのことを学んだといいます。どんなHappenがあったのでしょうか?
社長になることを目標に進学先を決めた
――日本初の「アントレプレナーシップ」を冠した学部である、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部に通っていらっしゃるそうですね。
現在、3年生です。この学部を選んだのは社長になれば権力を得ることができ、社会に何か発信できるのではないかと思ったからです。高校球児だった2020年に甲子園が中止になった時、若者が声をあげても社会にはなかなか届かないということを実感しました。どうしたら自分たちのような若者でも社会にインパクトを与え、変化を起こせるんだろうと考えた時、高校生ながら思いついたのが「社長になること」だったんです。それが武蔵野大学のアントレプレナーシップ学部を志望した理由です。
――実際に起業をされたと聞いています
2022年1月に同じ学部の仲間6人で合同会社を立ち上げました。事業内容としては、インターン生を受け入れたい企業を対象に、会社の魅力を伝えるプログラム作りの支援などを行っていました。起業する前は「自分ならできる!」と根拠のない自信があったのですが、現実は甘くなかったですね。起業すること自体はとても簡単だし、社長になるのも難しいことではありません。ただし、社長になっただけでは何も変わらなかったですね。半年くらいは活動していたのですが、現在は、登記上は会社として存在しているものの事業はストップしている状態です。半年間の活動を時給換算すると100円にも満たないくらいだと思います。実際に起業して初めて「お金を稼ぐ」というのはすごく難しいことだと思い知りました。
自分の愚かさを知ることが成長につながる
――Venture Café Tokyoとはどのような関わりがあるのでしょう?
最初のきっかけは、CIC東京に入居する企業が主催するイベントに参加したことです。24時間で事業アイディアを構築し、最終段階として投資家にプレゼンを行うというイベントでした。大学の授業で素晴らしい先生方に教わっていることもあり、「学んだ成果をここで披露してやる!」と自信満々で臨みました。でもいざイベントに参加してみると、プレゼンは要点を抑えることができていないし、話すのも下手で全然ダメでした。ものすごくショックで、とにかく何かしないと成長できないと思いました。そのイベントにはVenture Café TokyoのProgram Directorの小村隆祐さんがアドバイザーのような形で参加されており、小村さんに相談したところ「Venture Café Tokyoに来てみれば?」というような話になったんです。そこから毎週Venture Café Tokyoに通い詰めました。
Venture Café Tokyoでは様々なセッションが開催されているほか、素晴らしい方々に出会う機会があり、本当に多くのことを学んだと思います。会社を設立するには具体的に何をすればよいのかなど初歩的なアドバイスももらえました。もともと起業をするつもりでしたが、実現に向けて背中を押された感じですね。会社を設立したのはVenture Café Tokyoに通い始めて2カ月後くらいです。
起業して半年間はVenture Café Tokyoの会場の一角に自分たちのスペースをもらい、学生団体や学生起業家を招いてみんなで語り合うということをやっていました。毎回10~15人規模で行っていましたが、毎週続けることの難しさや、集客の大変さなどを実感しました。
――設立した会社のビジネスは順調だったのでしょうか?
実のところ“うまく行かないことしかない”ような状態でした(苦笑)。Venture Café Tokyoには経営者の方もたくさん来ていらっしゃるので、その方たちに「自分だったらどうしますか?」「こういう問題に直面しているのですが何をすべきでしょう?」などの疑問をぶつけてアドバイスをもらいました。学生でありながら第一線で活躍する経営者の方たちに直接話を聞いてもらえる環境というのはなかなかないと思うので、非常にありがたかったです。
先にも述べましたが、大学の授業ではすごい先生たちに教えてもらっているので、そこで学んでいる自分たちもすごいと思い込んでいたんです。でも、ただの学生とVenture Café Tokyoに来ている経営者の方たちとはレベルが全然違うんですよね。いかに自分が井の中の蛙だったかを思い知りました。でもレベルの違いを感じるのは、すごく面白いことでもあると思うんです。自分の愚かさを知れば、それが成長のきっかけにもなります。
失われた夏を取り戻すプロジェクトを始動
――22年8月には「あの夏を取り戻せプロジェクト」をスタートされましたね。どういうきっかけで始めたプロジェクトなのでしょう?
僕は小学生のころから高校までずっと野球をしており、「野球が人生のすべて」のような生活でした。ところが、高校3年だった2020年、世界的な新型コロナウィルス感染拡大に伴い、戦後初めて「全国高等学校選手権大会」夏の甲子園が中止になりました。高校球児にとって甲子園は特別なもの。みんな甲子園出場を目指してつらい練習を頑張るわけです。それをいきなり取り上げられた喪失感はハンパなくて、まさに自分の人生そのものを否定された気持ちになりました。
そういう思いは2年経っても消えませんでした。当時の仲間と会ってご飯を食べても最後には「後輩の代は甲子園に行けて羨ましい」という話になってしまうんです。同じような思いをしている元高校球児はたくさんいるのではないかと考え「あの夏を取り戻せプロジェクト」を始めることに。本来甲子園に行けるはずだった49校が集まり甲子園でプレーをすることを目指します。7月10日現在、44校、約1000名の元高校球児の参加が決まっており、今年の11月29日に甲子園を一日お借りできることにもなりました。費用を賄うため、23年6月7日にクラウドファンディングを開始しました。プロジェクトにかける思いや、具体的にどういうことを計画しているのかはクラウドファンディングのページでも説明しています。目標額7000万円を掲げて奮闘中です。
――様々なメディアに取り上げられていますし、クラウドファンディングのページなどには著名人からの応援メッセージも寄せられていますね。
この1年間でNHKニュースウォッチ9 、ABEMA NEWSその他100社以上のメディアに取り上げていただきましたが、北海道から沖縄までの新聞、テレビ、ラジオの電話番号を片っ端から調べて約6000件ものテレアポをした成果なんです。今は手伝ってくれるスタッフがいますが、当初は自分一人で電話をかけまくっていました。僕らには知識や経験、スキルなんてありませんから、できることを愚直にやっています。
メディアで紹介されることも少なくないので、クラファンページの来訪者数は結構あるんですが、資金援助をしてくださる率が低いのが課題です。SNSで呼びかけたり、企業へのアプローチなども拡大していくつもりです。
自分が受けた恩は後輩たちに還元したい
――起業の経験はプロジェクトの運営に役立っていると思いますか?
そこはすごく感じます。例えば、会社を設立した時は6人で始めたのですが、役割など何も考えていなかったのでいろいろと難しいこともありました。「あの夏を取り戻せプロジェクト」はまず僕一人で始め、自分のリソースが足りなくなったらそこに対して必要な人材を入れようという体制にしたのですが、そのようなやり方にしたのは起業をした経験があったからこそです。
――学業に加えプロジェクトPRのためのメディア出演など多忙な日々を過ごされているようですが、今でもVenture Café Tokyoとはつながっているのでしょうか?
僕自身が正式に表明したことはないのですが、頻繁に顔を出しているのでVenture Café Tokyoのアンバサダーだと思われているみたいです(笑)。今でも困ったことがあると小村さんに相談していますし、頑張っていてもどうしてもモチベーションが下がってしまう時にはVenture Café Tokyoに行ってやる気を補充します。僕は「環境は人を変える」と思っており、Venture Café Tokyoのように様々なレベルの高い人たちが集まる場に身を置くことで、視座を高めることができると考えています。
――今後の目標はありますか?
「あの夏を取り戻せプロジェクト」は非営利だからこそ、ここまで来ることができたという部分があります。ただ、非営利だと活動に限りはありますし、継続性がないというのはよいことではないので、次に何かプロジェクトに取り組む時は、以前失敗した「しっかりお金を稼ぐ」ことを全うしたいと思っています。
また、これは絶対やりたいと決めていることが一つあります。
僕は第一線で活躍する“カッコいい大人の方”に接する機会が多く、多大な恩を受けています。将来、僕が成功した時にはご恩を返すつもりなのですが、その方たちは必ずといっていいほど「もらった恩は自分たちに直接返すのではなく後輩たちに渡しなさい」とおっしゃるんです。いわゆるペイフォワードですね。その手段として僕が考えているのが、週1回くらいでもよいので自分が学んできたことを大学などで教えることです。もちろん今すぐではなく、自分がそういう立場になったらということなんですが、いつか実現させるつもりです。
●「あの夏を取り戻せプロジェクト」公式サイト
●クラウドファンディングページ
https://ubgoe.com/projects/444
◆Venture Café Tokyoについて/ About Venture Café
Venture Café Tokyoは”Connecting innovators to make things happen”をミッションに掲げ、各種プログラミング・イベントを通じてベンチャー企業・起業家・投資家を繋げることで、世界の変革を促すイノベーションの創出を狙いとする組織です。Thursday Gatheringは毎週木曜日16時-21時に開催されるVenture Café Tokyoのフラッグシップ・イベントです。教育セッションや安全で快適なネットワーキング空間の提供を通じて、多様な人々が集う場を提供し、上記のミッション達成を図ります。