HAPPEN #21: 加藤 広大さん(amu)

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今回のHAPPENでご紹介するのはVenture Café TokyoのシグネチャーイベントRocket Pitch Nightに出場したことがきっかけで資金調達を実現した廃漁網ベンチャー「amu」の加藤広大さんです。3分間のピッチやネットワーキングで工夫したことなども語っていただきました。

|漁具からサーキュラーエコノミーを生み出す

―加藤さんは異色の経歴と聞いていますが、簡単な自己紹介をお願いします。

出身は神奈川県の小田原市です。学生時代に訪れて以来、何度も訪れていた気仙沼に2019年に本格的に移住しました。移住する前はサイバーエージェントとテレビ朝日が共同で展開するAbemaTVに番組プロデューサーとして3年ほど携わっていました。移住当初は総務省の地域おこし協力隊という制度を利用し、気仙沼の移住センターに勤めながら事業のタネを模索。2023年5月にamu株式会社を設立しました。amuは漁師さんから廃漁網を回収、素材にして販売しています。

――amuを設立した経緯や目指すところなどを教えてください。

気仙沼に移住した時は「渋谷でできることはやらない」ということ以外は、どのような事業を行うかなど全く決めていませんでした。ただ、気仙沼は世界三大漁場として知られる三陸・金華山沖漁場の主要な水揚げ港の一つで、漁業というものを基幹産業にしている町です。ここを拠点にビジネスをするなら、やはり漁業とは切り離せないと考えていました。漁網に目を付けたのは、各港街のスニーカーを作るというビジネスを考えたことがきっかけです。例えば、石巻モデルや気仙沼モデルのスニーカーができたらかっこいいんじゃないかと思ったんです。「気仙沼モデルのスニーカーなら、漁業の町を支える漁網を使ってみてはどうだろう」という思い付きから改めて漁網というものに着目すると、世界を見渡しても漁網の再資源化というのは全く進んでいないことを知ったんです。そこから漁具の資源化というところに舵を切っていきました。
amuの事業は簡単にまとめると次の4ステップがあります。
① 全国の漁業者(いわゆる漁師さん)が使い終えた漁具、漁網を回収
② パートナーリサイクル企業と連携して再資源化
③ 素材ブランドとしてさまざまなメーカー様に素材を企画販売
④ 販売先企業様の製品の役目が終えたら再度回収、再資源化
→ ③ に戻る。
③ ④ を循環させることで「漁具からサーキュラーエコノミー」を生み出していきます。

|Rocket Pitch Nightの出場が資金調達につながる

――2023年3月開催のRocket Pitch Nightに出場されたということですが、そのきっかけは?

当時はプレシードで資金調達しようと東京に繰り出しまくっていた時期でした。せっかくピッチに参加するならより多くの人に見てもらいたいですよね。Rocket Pitch NightはVenture Café Tokyoというメジャーな組織の運営で、多くの人が集まりますし、投資家の方たちも注目しているはず。比較的確度の高いイベントという認識でしたし、開催されるなら出ないという選択肢はありませんでした。 Venture Café Tokyoには2年前くらいに行ったことがあるのですが、Rocket Pitch Nightで久しぶりに参加しました。

――Rocket Pitch Nightのほかにも様々なピッチイベントに出場されているようですが、他のイベントとRocket Pitch Nightはどのような違いがあると思いますか?

やはり3分という短さは大きな特徴だと思います。僕が参加していたピッチイベントは、持ち時間7分くらいのものが多かったのですが、その半分以下の時間で言いたいことをきちんと伝えられるのか、どのくらいの成果を得られるのか、自分としても実験的でした。

3分間にまとめるにあたっては、この時間ですべてを盛り込むのは無理なので、伝えるべきことを絞り込みました。技術的なことや競合優位性などをメインに話すという選択肢もあったのですが、今回はクリーンテックということを前面に打ち出すことに。クリーンテックという言葉を出すと冷めた反応を示す方も少なくないのですが、そこは承知の上で、あえて社会課題を前に出しながらそれをビジネスに変えていくという方向性で話しました。

――Rocket Pitch Nightでのピッチがきっかけで、シード期/アーリーステージの起業家を支援するVC(ベンチャーキャピタル)のANOBAKAさんから出資を受けたそうですが、どのような経緯があったのでしょう?

ANOBAKAの投資担当をしていらっしゃる松永和彰さんからメッセージをもらったのが始まりです。松永さんはオンラインでRocket Pitch Nightをご覧になっており、僕のピッチに興味を持ったのでもう少し詳しい話を聞きたいとご連絡いただいたんです。そこから、投資の可否を決める投資決定委員会の日まで松永さんとプレゼン内容を詰めていきました。どういう風にamuの事業を見せていけば効果的か、こういうワードを入れた方が刺さる、こういう数字は入れるべきなど、具体的なことをアドバイスしてもらいながら練り上げてプレゼンテーションを行い、その結果、投資をしていただけることになりました。
松永さんからのフィードバックによると、①気仙沼に移住し地域とのコネクションがすでに構築できていること、②海洋プラスチックゴミの問題というのは世界的に解決すべき課題で時流にマッチしているということ、③漁具の再資源化という、ある意味泥臭いことをサイバーエージェントというメガベンチャー出身者がやっていることの面白さなどが評価されたようです。

今回の資金調達に関しては、お金の面だけでなく、VCさんが持つコネクションなどのリソースも借りながら事業を成長させていくということも大きな目的としていました。ANOBAKAさんから資金調達したことは8月1日にプレスリリースで告知したのですが、VCさんがデューデリエンスしたうえで投資を決定したということの意味は相当大きいと感じています。弊社の事業の信頼性も格段にアップしたのではないでしょうか。プレスリリースを出して以降、CVCさんやVCさんなどから多数連絡をいただいています。

|3分間で資金調達できたと考えると効率は抜群

――Venture Café TokyoやRocket Pitch Nightの魅力はどういうところにあると感じますか?

Venture Café Tokyoのネームバリューというのは大きな魅力だと思います。「ここが運営しているなら質は担保されているだろう」というような信頼感がありますよね。だからこそ投資家サイドも注目度が高まりますし、ピッチするスタートアップも気合の入り方が変わってくると思います。

Rocket Pitch Nightは3分間でピッチをして、そのピッチに興味を持ったらネットワーキングで繋がってくださいというすごくシンプルな構造で、スタートアップにとっても投資家にとっても優しい設計だと感じます。僕の場合は自分でも想像していなかったくらいとんとん拍子に事が運んだわけですが、例えば半年かけてアクセラレーションプログラムに参加して、何十時間かけて投資が決まるのと比べると、3分間で資金調達できたと考えるとすごく効率がいいですよね。出場する前は3分間のピッチでどれだけ効果があるか半信半疑な部分もありましたが、決まる時は決まるのだと実感しました。

――Rocket Pitch Nightに参加を考えている人へのアドバイスをお願いします

参加しないことには可能性はゼロなので、まずは参加することですね。先ほど述べたこととも重なりますが、3分間という時間ではすべてを伝えることはできないので、何にフォーカスし、ニーズを選定し作りこむかなど、どのように絞りこむかが腕の見せ所という部分はあると思います。

また、ピッチだけではなくネットワークの時間も大いに活用すべきです。その際には話す順番というのがとても大事だと思っています。話す内容は同じでも順番によって伝わり方というのは変わってきます。社会課題というところに反応する人もいれば、市場規模に興味を示す人もいます。「ソーシャルベンチャー」「クリーンテック」といったワードが出た途端、わかりやすく目にシャッターが降りる方も少なくないのですが、僕は相手の反応を見ながら話すべき内容の順番をコントロールし、最後まで話を聞いてもらえるように工夫していました。

――今後の目標や抱負などを教えてください。

amuの事業は「ゴミは誰を経由してゴミになっていったのか。そこにはどういう人の思いがあったりするのか」ということに対して付加価値がつくのでは?という仮説からスタートしました。たまたま気仙沼という漁業の町を拠点にしていたので漁網に着目し、調べてみたら想像以上に漁具リサイクルということが進んでいない状況だということに気づいたのでここから手を付けていますが、他にもポテンシャルのあるものはたくさんあります。現在行っていることは序章にすぎません。今後も資源になりえるものにしっかりアイデンティティを付加し、それを価値に転換させて循環していくということをやっていきたいと考えています。まずは漁具でそれが実現できることを証明し、最終的には「amuは何屋さんなのか?」と聞かれたら「資源循環の管理屋さん」と答えられるようになっていきたいと思っています。

◆Venture Café Tokyoについて/ About Venture Café
Venture Café Tokyoは”Connecting innovators to make things happen”をミッションに掲げ、各種プログラミング・イベントを通じてベンチャー企業・起業家・投資家を繋げることで、世界の変革を促すイノベーションの創出を狙いとする組織です。Thursday Gatheringは毎週木曜日16時-21時に開催されるVenture Café Tokyoのフラッグシップ・イベントです。教育セッションや安全で快適なネットワーキング空間の提供を通じて、多様な人々が集う場を提供し、上記のミッション達成を図ります。

http://venturecafetokyo.org/

◆「Rocket Pitch Night」とは
2019年から開催のVenture Café Tokyoのシグネチャーイベント。アントレプレナーシップ全米 №1 のバブソン大学のピッチフォーマットをもとにした取り組みを日本向けにアレンジ。参加者がそれぞれのビジネスアイデアを 3 分間で紹介し、経験豊富なコメンテーターや観客からフィードバックを得られる機会を作り、起業に向けた最初の一歩を踏み出す機会を提供します。累計500組5,000名以上参加の日本最大級ピッチイベントとなっています。

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