Happen #7: 厚子・東光・フィッシュ氏(JWLI創設者) & 那須もえ氏(アクセンチュア マネジング・ディレクター)

Venture Café Tokyo
15 min readSep 3, 2020

今回のHAPPENブログでは「女性」を中心に多様性を様々な形でエンパワーするお二人のリーダーにフォーカスをあてます。お二人はThursday Gatheringでの出会いからコラボレーションにつながりました。どのようにお二人が出会ったのかの話から、それぞれの思いと活動に迫ります!

今日はよろしくお願いいたします。まずは簡単にお二人の自己紹介をお願いします!

厚子:今日はよろしくお願いします。Japanese Women’s Leadership Initiative (JWLI)という日本の女性リーダー育成研修の創設者であり、このプログラムを企画運営するフィッシュファミリー財団の創設理事をしています。

これまでのことを順にお話しすると、銀行員だったアメリカ人の夫と東京で出会い、約40年前にアメリカへ移りました。日本でもずっと仕事をしていたのですが、慣れない土地であるボストンで仕事見つけるのは本当に大変でした。

当時は日本の景気が良い時代だったにも関わらず、マサチューセッツ州政府内には対日本政策の仕事がありませんでした。それで、州知事に手紙を書いたんです。「もったいない」と。そしたら「自分もそう思う」と電話があり、その場で採用されてしまったんです。その時、「アメリカってすごいな」と思いました。私のアイディアを信じてくれる。アメリカは本当に夢が叶う国なんだなと思いました。そして、リーダーというのはこういうものなのかと思ったのを今でも覚えています。

それで州政府で何年か務め、文化や観光、ビジネスなど、様々な分野を担当しました。その後、州政府での経験が役に立ち、アメリカで最大級の公衆衛生の支援活動を行う国際開発NPOから、日本のことがわかる人がほしいと誘われました。当時は日本がODA支援を活発に行っていたんですね。

最初は公衆衛生も、非営利セクターのことも分からなかったんです。ただ、公衆衛生の専門家や医師、現地のスタッフと働く毎日は楽しく、新しいい学びばかりでした。それが、アメリカのNPOにはじめて触れた経験でした。

そのNPOの代表が、2000年ごろにアジアにおける女性の地位について日本で講演をしました。すると、なぜ日本の女性の地位はこんなに低いんだと参加者からたくさんの質問が出ました。私は日本を出た80年代と状況が何ら変わっていないことに驚愕しました。

それがJWLIを設立するきっかけでした。学術的なことではなくて、実践的なことを教えることで、女性のリーダーを増やし、活躍の場を広げたいと考えました。

那須さんのこともお伺いできますか?

那須:はい。那須もえと申します。私もボストンとは縁があって、2001年の頃にボストンにある大学院に通っていました。その後、今の会社であるアクセンチュアに入社しました。

アクセンチュアでは、もともとはパブリックセクターのお客様のシステム導入に係るお手伝いをしていました。直近は、海外のスタートアップや、テクノロジーの強い優良な企業さんに東京の魅力を知って頂き、東京でビジネスされるサポートや、外国企業に関わらないんですが、若い企業さんと大手企業さんのコラボレーション・イノベーションを促進するような支援をさせていただいています。

アクセンチュアではジェンダー・LGBTQ・障がい者・クロスカルチャー(外国人)の4つの柱をたててインクルージョン活動を行っています。私は、コーポレートシチズンシップの一環でもあるのですが、特に女子学生を対象にした教育プログラムを行っており、来年の春ごろには10周年を迎えることになります。

そういったインクルージョン活動に取り組み始めたきっかけは、実はずっと昔のスイスでの高校時代に2つありました。

ひとつは、当時のルームメイトがたまたまLGBTの方だったんですけど、その当時は学校がとても厳しく、あることでルームメイトは退学になってしまいました。この時、世の中はとても理不尽なものなんだと強く感じたのを今でも覚えています。

もう一つは、日本でいうところの修学旅行で、年に1回周辺国に行くんですけど、アフリカに行った時、クラスメートと共に立ち話していた私に、5歳ぐらいの女の子が両手を広げて近寄ってきました。稚拙だった私は、この子に1ドルでもあげられたら、あと何日かは不安な気持ちを持たず生き延びられるかもしれないと思って、お金を出そうとしたんです。でもそのときに、同じアフリカからの同級生にすごい怒られました。

最初はなんで怒られたのか全く分かりませんでした。でも、もう少し視野をひろげたら、目の前にきた子は1人なんですが、本当はもっといるわけです。また、あと数日は生きられるかもしれないけど、1週間後にはまた同じように手を差し出さなければ生きていけない厳しい現実が待っているわけです。そうやって「手を差し出したらもらえる」ということをその子が覚えてしまったら、貧困の根治的な解決にならない。自分のした行動が結局自己満足でしかなかったことに気づかされ、大いにショックを受けました。一方で、一見、冷たいように見えるシビアさも社会課題の解決には大切だということを深く学びました。

厚子:本当にそうですよね。抜本的な解決になってないんですよね。

那須:そうなんです。同級生に怒られて、目の前の現実と社会課題の解決という双方の葛藤があったのをすごく覚えています。社会課題解決の難しさというのを本当に小さいワンシーンだったんですけど、とても感じる一瞬でしたし、生半可な気持ちでやってはいけないなと思いました。

厚子さんと那須さんとは、Thursday Gatheringを通じて出会われたとのことですが、その出会いが今どのようなことに繋がっているのですか?

厚子:那須さんに今お願いしているのは私が運営しているJWLIプログラムのメンターです。

いつも企業の中で社会的な活動をされているサポーターを探しています。アメリカ的な経営の発想がわかりながら、日本の慣習に合わせてやってらっしゃる方、そして実践を通じて苦労をされてきた方、そういう経験・知識は貴重で、そういう方を探していました。

きっかけは、Thursday Gatheringでの偶然の対談で、那須さんのお話を聞いてお誘いしました。那須さんであれば、メンターに適任だと強く確信しています。

なるほど。JWLIのプログラムについてもう少し詳しく教えていただけますか?

厚子:ビジョンは先ほども申しましたが「Women lead social change of Japan」。

JWLIは2年間の女性リーダー育成研修です。フェロー(プログラム参加者)は、米国ボストンで4週間のトレーニングプログラムを受け、明確なアクションプラン立案します。それを実現することで社会を変えていく。様々な社会課題に取り組む女性たちが参加し、日本の社会変革に必要なリーダーとしての成長を後押しします。

例えば、日本ではリーダーはこうあるべきという固定観念があるように思いますが、リーダーには色んな形があり、誰でもリーダーになりうることを学びます。またNPOや社会起業家を訪問し、現場のリーダーと対話をします。座学としてではなく経験として習得するというとても珍しいプログラムです。また1週間はBabson Collegeのキャンパスに宿泊し、トレーニング・コースで世界の女性たちと切磋琢磨しながら悩み、学びます。

個人的な学びがより人を変えます。素晴らしい実践をしているリーダーたち会うことにより、フィランソロフィーの真髄を知ってもらう。彼女たちの失敗談を聞かせてもらうのも大切な学びです。那須さんにお願いしているメンターは、フェローがボストンで立案したアクションプランを2年間かけて実現する間の壁打ち・伴走役です。

プログラムは主にはソーシャルセクターの方が対象ですが、企業や行政の方もいます。ボストン滞在中は、共同生活を通し多様性を学びます。また、ソーシャルセクターにおける利潤は社会貢献や社会インパクトですが、そういうパッションや信念も大切です。ただ、気持ちだけでは、団体は運営できないので、リーダーシップが大切になってくるわけですね。

ボストンでのプログラムに限らず、JWLIの活動は広がりを見せているとお伺いしていますが、いかがでしょうか?

厚子:そうですね。アメリカはOpen・Positive・Inclusiveという基本的な価値観があって、自分のやりたいことはなんだと真正面に考える文化があるので、アメリカでやることが大切だと当初は思ってたんですね。

日本でも開催してほしいとの声を長年、多くの方から頂き、ついに2019年にBootcampという3日間の合宿型研修を開発し、名古屋と石巻で開催しました。トライアルだったんで、どうなるかわからなかったんですが、とてもうまくいきました。日本語で、日本でやっても、できるんだと。Bootcampプログラムの最後に卒業証書を出すんですが、名古屋も石巻も全員号泣だったんですよ。私自身もびっくりしました。それはプログラムを通じて、がんじがらめになっていたところが解放されたんだと思っています。

そういった経緯から、現在は100名を超す卒業生コミュニティーに、外部のステークホールダーを積極的に巻き込みエコシステムにしていこうと考えています。まさに、Women Leading Social Change in Japanです。

那須さんの活動についてもお伺いしていいですか?

那須:アクセンチュアは2006年から日本でもジェンダー(当時は女性)のインクルージョンをやってるんですが、もともとは制度のことからはじめていて、育休制度などの整備からはじめました。その後、女性だけでなく、男性と共通の課題にも向き合い始めました。いずれにしても、この取り組みの初期から、結局制度やカルチャーを決めるのは経営者層なので、そういうクラスの人たちが率先してダイバーシティを受け入れていく改革を並行してやってきています。

グローバルの前社長は2025年までに男女比率を半々にするという目標を掲げていたり、今のグローバル社長は女性なんですが、それぞれのタイミングでそれぞれの目的を掲げています。日本の歴代も今の社長ももちろん同じです。

LGBTQについても、ライフパートナーの方をサポートする制度があります。トランスジェンダー(T)の方は手術する方もいらっしゃって、その支援であったり、LGBTQに対する正確な理解を普及する、また、LGBTQをサポートしている社員(ALLY(アライ)といいます)が、サポーターだとわかるように社内ストラップをつけるなど、見た目からもLGBTQの方が安心して働けるように配慮する取り組みも行っています。

先に述べたジェンダーの取り組みと一緒で、アクセンチュアでは経営層が率先してやらないといけないという風潮があって、例えばLGBTQの方をサポートできているかということが問われる。ストラップもリーダー層から着けていますね。障がい者、クロスカルチャー(外国人)のインクルージョンも同じです。

那須さん個人として、特に注力している領域はありますか?

那須:はい。女性の大学生の方をサポートするというもので、AIESECという学生団体さんと連携して、女性の大学生さんたちが社会に出られた時に、活躍されるような育成プログラムを10年近くやっています。厚子さんがおっしゃっていたように、精神論だけでは営利であれ、非営利であれ活躍できないので、ロジカルシンキングやデザインシンキング、プレゼンテーションといった様々なスキルについて私たちの知見を共有しています。

私は全く英語がしゃべれない中学卒業生の時に海外に行って、アウェー感満載で生活するのって大変だなっていうことをとても痛感しました。最初は言語がほとんどわかりませんから、みんな知らない海外の人という感じなんですが、だんだん言葉が通じると、個々人の良さや魅力がわかってくる。本当は日本でもそういったことがあったはずなんですが、日本にいると当たり前すぎてわかってなかったんですね。そこで一人ひとりの個性の大切さを改めて学びましたし、そういった個性をぶつけ合うことで、新しい発想が生まれてくるのだと実感しました。ただ、人は必ず「アンコンシャス・バイアス」を持っていて、そこをちゃんと理解していないと、新しい何かを生みだす妨げになってしまう。イノベーションを生み出す力(個性)は一人ひとりがもっていると思うので、AIESECと一緒に取り組んでいることのような身近なところから、ダイバーシティやインクルージョンの大切さを啓蒙しながら、微力ながら人の成長を支援させて頂き、ゆくゆくはそういったことを通じて日本の成長・発展にも貢献できればと思っています。

最後に、メッセージをいただければ幸いです。

厚子:最後に、なぜJWLIをエコシステムにしようとしたかというこうとをお話しします。私は戦前生まれで、今でも焼け野原を覚えています。そんな日本が1964年にオリンピックを開催し、日本の復興を世界に知らしめた時代がありました。その時代は、企業と政府が二人三脚で牽引しました。でも、今は政府と企業だけでは小回りがきかないし、弱者に目が向けられない時代になったと思うんです。そこで、ソーシャルセクターと企業と政府の3つの車輪でやっていかないといけない時代なんだと思うんですね。だからこそエコシステムをつくろうと思ったんです。

その上で、那須さんのような個人や企業、団体、政府と繋がり、今後とも多くの方々と連携しながら、このエコシステムを育んでいければと思っています。

那須:女性もそうですし、それ以外のインクルージョンをしないといけない方々には、色んな活動をこれまでもやってきました。会社としても個人としてもそうなのですが、我々の貢献をもっと外に向けてやっていかないといけないと思っています。厚子さんともまたお話できることを楽しみにしています。

ありがとうございました!今後もお二人の活動について楽しみにしております!(了)

◆お話をお伺いした方

厚子・東光・フィッシュ氏/Japanese Women’s Leadership Initiative (JWLI)創設者, フィッシュファミリー財団創設理事
1999年の設立より、フィッシュファミリー財団の理事として従事。同財団は、移民に市民権を与えるプロジェクトや、低所得就労世帯(特に移民、もしくは母子家庭)を支援する社会福祉団体の援助を目的として活動しています。また、異文化交流に取り組むプログラムや団体の援助も行っています。2011年3月に起きた東日本大震災以降は,いち早く「東北緊急援助基金ボストン (Japanese Disaster Relief Fund Boston)」を立上げ,被災者支援活動に尽力しました。同基金は、総額約100万ドル (約1億円) を寄付で調達し、東北で活動する19支援団体に助成金として送り、2013年3月にその活動を終了しました。2006年には、日本における女性の社会貢献を目的としたリーダーシップ育成研修プログラム、Japanese Women’s Leadership Initiative (JWLI) を設立しました。2013年には、女性のエンパワーメントへの貢献が認められ、ホワイトハウスよりChampion of Change賞を受賞しました。同じように日本社会で地域社会に根ざし活動している女性に光を当てることを目的に、2017年にはChampion of Change Japan Awardを、2019年にはJWLI Bootcampを設立しました。また、2018年には、日本のソーシャルセクターの女性リーダー育成への功績が認められ、旭日小綬章を受賞しました。

那須もえ氏/マネジング・ディレクター/アクセンチュア株式会社 公共サービス・医療健康本部
米大学院卒業後、アクセンチュアに入社。主に国・自治体における産業集積(インバウンド/アウトバウンド)に係る政策立案支援や、実行支援を担当。特に近年は、フィンテック等における企業誘致を推進。東京金融賞2018–2020事務局を担当

◆Venture Café Tokyoについて/ About Venture Café

Venture Café Tokyoは”Connecting innovators to make things happen”をミッションに掲げ、各種プログラミング・イベントを通じてベンチャー企業・起業家・投資家を繋げることで、世界の変革を促すイノベーションの創出を狙いとする組織です。Thursday Gatheringは毎週木曜日16時-21時に開催されるVenture Café Tokyoのフラッグシップ・イベントです。教育セッションや安全で快適なネットワーキング空間の提供を通じて、多様な人々が集う場を提供し、上記のミッション達成を図ります。

http://venturecafetokyo.org/

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