HAPPEN BLOG #30 ASTRO GATE CTO 中尾太一さん
今回ご紹介するのは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のエンジニアを経て宇宙スタートアップのCTOに就任した中尾太一さんです。転身のきっかけは TSUKUBA CONNÉCTに参加したことだといいます。どのようなHAPPENがあったのでしょうか?
| TSUKUBA CONNÉCTがきっかけでスタートアップのCTOに
――この4月に転職されたそうですが、現在はどのような仕事に携わっていらっしゃるのでしょうか?
世界初となる複数のスペースポート(宇宙港)の企画運営を手掛けるASTRO GATEという会社でCTOを務めています。スペースポートはロケットの離発着をする拠点になる重要なハブで、当社はスペースポート自体の開発のみならず周辺地域での宇宙関連ビジネスの創出やコンサルティングなど総合的な支援を提供します。私はCTOとして技術的な取りまとめの責任者をしています。
2025年4月にASTRO GATEに転職するまではJAXAに勤務していました。大学卒業後にJAXAに入社して以来ずっと宇宙開発に携わっており、最初の3年間は種子島宇宙センターに配属されました。所属していた部署ではスケジュール管理、コスト管理、対外的な申請や現場で発生したトラブルの対処など、ロケット打上げに係る全体の進行管理や運用を担っていました。その後、5年ほど前に筑波宇宙センターに異動になり、そこでは日本の新しい基幹ロケットであるH3ロケットを打上げるための地上インフラ周りの開発を担当していました。
――宇宙に関わる仕事を志すことになった理由はあるのでしょうか?
宇宙開発という仕事に興味を持ち始めたのは、高校を卒業するころに、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ」帰還のニュースを見たことがきっかけです。イオンエンジンの故障や姿勢制御装置の異常など様々な困難に見舞われながらも世界で初めて小惑星からサンプルを持ち帰るという偉業を成し遂げたということで、かなり話題になっていました。大学の専攻は直接宇宙には関係なかったのですが、宇宙に関わる仕事がしたいという思いはずっと胸に秘めていました。そこで就職活動をする時に思い切ってJAXAに応募したんです。
――ASTRO GATEへの転職は TSUKUBA CONNÉCTがきっかけだったと聞いています。
2020年に種子島からつくばに異動になったのですが、私は奈良県出身で大学は名古屋だったこともあり、つくばには知り合いが全くいなかったんです。人脈を広げたいと思い、インターネットで調べて「Tsukuba Place Lab」という筑波大学すぐそばのコワーキングプレイスに行ってみたんです。そこを運営している会社の代表が TSUKUBA CONNÉCTのProgram Managerをしている堀下恭平さんでした。堀下さんから TSUKUBA CONNÉCTに一度来てみてはどうかと誘われ、行ってみることにしました。
私が行った日は宇宙に特化したセッションが開催されており、登壇者の一人であった一般社団法人SPACETIDEの理事兼COOの佐藤将史さんを堀下さんが紹介してくださいました。SPACETIDEは、日本および世界の宇宙産業の発展・拡大のため、宇宙ビジネスの新たな潮流を創るというミッションを掲げて業界横断的な活動を行う団体で、CIC東京にオフィスがあります。ちょうど、活動の一つとして国内で初めての宇宙スタートアップに特化した発掘支援プログラム”AXELA”を立ち上げようとしていたころで、佐藤さんにプロボノとして参加してみないかと声をかけていただきました。
TSUKUBA CONNÉCTでは毎年、宇宙に特化したセッションが開催されており、私が最初に参加した時は単にオーディエンスとしての参加でしたが、その翌年は SPACETIDE側の人間として登壇しました。SPACETIDEのAXELAプログラムには今でも携わっていますし、その中でビジネスとしての宇宙開発を肌で感じ、多くの宇宙スタートアップ関係者の方々とも出会えたことが今の自分のキャリアに繋がっています。
AXELAプログラムにはたくさんの企業や関係者の方々にご協力頂いており、その一人が現在ASTRO GATEの創業者兼代表取締役社長である大出大輔さんでした。当時大出さんは別の会社に勤務されていたのですが、「独立を考えているのでもし興味があれば手伝ってもらえないか?」と言われて今に至っています。
たまたま知り合った堀下さんに誘われて TSUKUBA CONNÉCTに参加し、そこで出会った SPACETIDEにプロボノとして携わり、その関係で ASTRO GATEともつながることになったというわけです。もし TSUKUBA CONNÉCTに参加していなかったらおそらくまだJAXAで働いていたと思います。
|民間企業が力をつけてきはじめた今だからこそチャレンジ
――JAXAという大きな組織から設立2年目のスタートアップに転職するのは大きな決断だったと思います。どのような思いがあったのでしょうか?
JAXAは国の機関ですから大規模なプロジェクトに関わることができます。ただ2003年の発足から20年以上が経ち基本的な枠組みというのはすでに出来上がっているので、ゼロからスタートするというわけではありません。また、大きな組織だけに手順を踏まなければ物事を進められないなど、一つのことを実行するのにかなり時間を要します。
一方、スタートアップは誰かに許可を求めるのではなく自分で考え判断、実行する必要があります。大変な部分もありますが、スタートアップの方が圧倒的にスピード感があります。
また、宇宙分野というのは、従来は各国の政府が主導して進めてきましたが、近年は例えばアメリカのSpaceXや、Rocket Labなどの民間企業が急速に力をつけています。日本も少し遅れて宇宙スタートアップが今、かなり立ち上がってきているところです。そんな中でASTRO GATEに出会い、世界中のスペースポートを企画運営するという壮大なビジョンとエネルギー溢れる優秀な仲間に惹かれました。発射場を開発する技術者としては、まっさらな状態から作り上げたいという願望のようなものがあります。10年後だと民間企業もある程度基盤ができあがってしまい“ゼロからの立ち上げ”は難しくなっていっているかもしれません。チャレンジするなら今しかないという思いもありました。
| TSUKUBA CONNÉCTは “つくば”という街の特性が生きている
――Venture Caféや TSUKUBA CONNÉCTの魅力はどういうところだと思いますか?
Venture Caféのイベント全般的にいえるのは、いろんな専門分野を持った様々な人たちにフラットに出会える場だということ。これはすごく貴重なことですし魅力を感じます。
さらに TSUKUBA CONNÉCTに関しては“つくば”という街の特性が生きていると思います。
つくばにはJAXAはもちろん、産総研、NIMS(物質・材料研究機構)、高エネ研など数多くの研究所が集積しています。PhDホルダーも非常に多くて、もし「つくばの住人のPhDホルダー率」などを調査したらすごいことになるかもしれません(笑)。
ただ残念ながら所属する組織が違うと交流する場がほとんどないんです。でも TSUKUBA CONNÉCTに行けば専門性豊かで多様な人達に気軽に会うことができます。仕事が終わって立ち寄ったイベントで、例えば著名な本の著者であったり、ある分野では有名でSNSではすごい数のフォロワーがいる研究者などに出会えるというのは日本全国を探してもあまりないのではないでしょうか?研究者レベルだと、専門性が高すぎて一般の方には話が通じにくい傾向があります。専門的な話が理解できる相手と交流できるのは貴重ですし、このあたりは東京とはまた違った魅力かもしれません。もちろん、研究者以外にもスタートアップの人たちや行政の人たちなども参加しているので、多様な人たちと知り合うことができます。
セッションに関しても、他の場所では専門的すぎるような内容でも「 TSUKUBA CONNÉCTならOK」ということも多々あります。むしろ、「こんなマニアックな内容はつくば界隈でしかできないのでどんどんやろう」というような風潮さえあります。
――今後の抱負と目標を教えてください
先にも少し述べたように、日本政府は宇宙開発において民間企業にも多額の資金を投入しており、その傾向は近年特に強まっています。例えば宇宙戦略基金を創設するなどして民間企業による宇宙ビジネスの創出と市場競争力強化を後押ししています。しかし、今のところ日本の宇宙スタートアップ企業で、収益化(黒字化)を実現できている企業はほとんどなく、多くの企業は資金調達を行いながら技術開発を進めている段階です。これから近い将来どれだけ多くの企業が自走できるようになるかが今後の日本の宇宙産業にとって本当の勝負だと思っています。日本の宇宙ビジネスを盛り上げることはもちろん、自らスタートアップ企業に転職したからには、事業としてしっかりと軌道に乗せ、ASTRO GATEで世界中のスペースポートを運営することで日本の宇宙産業のさらなる発展に貢献していきたいと考えています。
◆Venture Café Tokyoについて/ About Venture Café
Venture Café Tokyoは”Connecting innovators to make things happen”をミッションに掲げ、各種プログラミング・イベントを通じてベンチャー企業・起業家・投資家を繋げることで、世界の変革を促すイノベーションの創出を狙いとする組織です。Thursday Gatheringは毎週木曜日16時-21時に開催されるVenture Café Tokyoのフラッグシップ・イベントです。教育セッションや安全で快適なネットワーキング空間の提供を通じて、多様な人々が集う場を提供し、上記のミッション達成を図ります。
http://venturecafetokyo.org/
TSUKUBA CONNÉCTは、茨城県を主催として、ボストン発、世界6ヵ国16都市で活動するVenture Caféが茨城県つくば市で運営するイノベーション促進/ 交流プログラムです。
