J-STARTUP NIGHT:「ブーム」から「カルチャー」へ。スタートアップの最新動向を体感する一夜
はじめに
スタートアップのエコシステムが急速に発展する中、日本におけるスタートアップ政策の最新動向を体感できるイベント「J-STARTUP NIGHT」が開催された。本イベントは、日本発のスタートアップを世界に羽ばたかせるJ-Startupプログラムの一環として行われ、「ブーム」から「カルチャー」へと変化するスタートアップシーンを探る場となった。
本記事では、イベントの概要とともに、登壇者が語った示唆に富む発言を振り返る。
How to Enjoy:イベントの楽しみ方
会場は、スタートアップ関係者、投資家、大企業のイノベーション担当者など、多様なバックグラウンドを持つ人々で埋め尽くされた。イベントの冒頭では、「スタートアップとの出会いを楽しみ、視野を広げることが重要」とのメッセージが強調され、参加者同士が活発にネットワーキングする姿が印象的だった。
スタートアップの成長を支えるインセンティブ報酬のいま
「ストックオプションの進化と課題」
スタートアップの成長を支えるインセンティブ報酬のいま
スタートアップが成長していく上で、優秀な人材を確保し、モチベーションを維持するためのインセンティブ報酬は非常に重要な要素である。本セッションでは、ストックオプションをはじめとするインセンティブ報酬の活用方法、現状の課題、戦略的な分配の考え方などについて、具体的な視点から議論が行われた。
「インセンティブ報酬を分配するときの考え方」
登壇者の一人、宮田氏は、スタートアップにおけるインセンティブ報酬を3つのプールに分ける考え方を提案した。
1. 初期メンバー向け
企業の黎明期に参画し、リスクを取ってくれたメンバーに対する報酬。彼らの貢献にどの程度の割合を割くべきか慎重に考える必要がある。
2. 全社の利害を一致させるため
企業がある程度の規模に成長した段階で、社員に広くストックオプションを配布し、組織全体のモチベーションを高める。
3. 将来的なCXOやキーパーソンの採用のため
経営層や重要なポジションにいる人材を確保するためのインセンティブ報酬。
宮田氏は、「パーセンテージではなく、最終的なリターンを金額で考えることがおすすめ」と述べる。例えば、「企業が時価総額1,000億円を目指すならば、1%のストックオプションは10億円の価値になる。それが個人にとって適切なリターンなのかを考えてみるとよい」と具体例を交えながら解説した。
「獲得、インセンティブアラインメント、リワードの3つのフレームワークで考える」
また、村上氏は、ストックオプションの役割別に考えるフレームワークとして、①優秀な人材を採用するため、②会社の成長戦略の達成に向けたインセンティブをアラインさせるため、③目標達成した際にリワードとして配るため、の3つに分ける考え方を紹介した。
「ストックオプションは、人的資本戦略とグロース戦略と三位一体で考えていくべきものであると理解しておくことが重要」と村上氏は述べた。
J-Startup選定企業によるピッチセッション Part.1
古賀経済産業副大臣は、J-Startupが2018年に発足し、約7年間で成長を遂げてきたことを強調した。これまでに239社が選定され、今回新たに31社が加わり、合計270社となった。政府はスタートアップ育成五カ年計画のもと支援を続け、国内のスタートアップ数は約16,000社から22,000社に増加し、経済への貢献も拡大している。また、今年行われる大阪・関西万博でのGlobal Startup Expo開催も含め、パイオニア精神を持ち、未来を拓くイノベーションを支援する意欲を示した。
1. Global Vascular株式会社
「医療技術を通じて血管治療の新たな可能性を開く」
Global Vascular株式会社は、ナノコーティング技術を活用した血管内治療デバイスを開発している。特に異物反応を低減し、膝下の動脈にも適応可能なステントを開発中。現在、国内で治験を進め、患者への早期提供を目指している。
2. 株式会社Splink
「AIを活用した中枢神経疾患の診断支援」
株式会社Splinkは、中枢神経領域の診断支援を目的としたプログラム医療機器を開発するスタートアップである。全国の大学病院や医療機関と連携し、認知症をはじめとした中枢神経領域の疾患の診断を支援する脳画像プログラム「BRAINEER®︎」や脳ドック用AIプログラム「Brain Life Imaging®︎」を提供。
3. 株式会社オレンジ
「生成AIを活用した漫画の多言語展開」
株式会社オレンジは、生成AIを活用して漫画の翻訳コストと時間を10分の1以下に抑え、より多くの作品を迅速に世界へ届ける仕組みを構築している。英語だけでなく、フランス語やスペイン語など多言語展開も可能。漫画を世界に広め、日本文化の発信を加速することを目指す。
4. Sakana AI株式会社
「日本発のグローバルスタンダードAIの開発」
Sakana AI株式会社は、日本初のグローバルスタンダードAIモデルの開発を目指す企業である。今後は日本の産業や防衛分野のニーズに応える事業開発を加速させ、世界標準のAI技術を構築することを目標としている。
5. エイターリンク株式会社
「長距離ワイヤレス給電技術で産業分野を革新」
エイターリンク株式会社は、スタンフォード大学発のスタートアップで、長距離ワイヤレス給電技術を活用したソリューションを提供している。ファクトリーオートメーションのペイン解消につながるワイヤレスセンサを実用化し、ビルマネジメント分野にも貢献するなど、さらなるグローバル展開を目指している。
6. コミューン株式会社
「AIを活用したB2B顧客起点経営支援ソフトウェア」
コミューン株式会社は、顧客起点経営を支援するB2B企業向けソフトウェアを提供するスタートアップである。AIを活用し、企業、自治体、大学などが顧客中心の経営を実現できるよう支援。日本発のB2Bスタートアップとして、世界市場での成功を目指している。
7. HarvestX株式会社
「AIとロボットによる完全自動イチゴ栽培」
HarvestX株式会社は、東京大学発のスタートアップで、イチゴの完全自動栽培を目指している。苗や資材、設備の自動化から運用システムまでを一貫して提供し、特にAIとロボットを活用した世界初の完全自動受粉機を開発し、安定したイチゴの供給を実現する。
8. 株式会社エアロネクスト
「知財・技術・サービスでドローンを社会インフラに」
株式会社エアロネクストは、独自技術と知財をベースに低空域を活用した新たな価値創造を推進するスタートアップ。ドローンの安定飛行を実現する機体構造設計技術のライセンス提供、共同開発、地域の物流を集約化、効率化する新スマート物流推進、ドローン運航を事業展開。能登半島地震の際には、いち早くドローンを活用し医療物資を届けるなど、社会貢献にも取り組む。
9. 株式会社インターホールディングス
「真空技術でフードロスを解決する保存ソリューション」
株式会社インターホールディングスは、99.5%の真空状態を実現する特許技術を活用し、食品の長期保存によるフードロス削減を目指すスタートアップ。一般家庭向けの真空パックだけでなく、物流向けの大型パックも展開。既にインドやアフリカの企業とライセンス契約を進めており、今後は政府の備蓄米保存への導入も視野に入れ、地球規模での食料問題解決を目指している。
10. 株式会社ピリカ
「テクノロジーで世界のごみ問題を可視化・解決」
株式会社ピリカは、世界のごみ問題解決を使命とするスタートアップ。特にごみの自然界流出問題に取り組んでいる。ごみの分布を可視化するための調査事業「タカノメ」は、国内外の累計1,800,000km以上の道路を調査済み。また、世界134カ国で累計4億個超のポイ捨てごみを回収したごみ拾い促進SNS「ピリカ」を展開。ごみの資源化事業や調査、コンサルティングにも取り組み、グローバルな環境課題の解決を目指している。
11. 株式会社SUN METALON
「脱炭素を実現する次世代金属リサイクル技術」
SUN METALONは、日本製鉄発のスタートアップで、独自の金属加熱技術によりCO₂排出を抑えた金属リサイクルを実現。特にアルミニウムリサイクルで高い効果を発揮し、米国のSkyDeckからも資金調達を実施し、グリーントランスフォーメーションを支える注目企業として期待されている。
J-Startup選定企業が自社のビジネスモデルや今後の展望について発表し、ネットワーキングでは多くの方がピッチ登壇社とコミュニケーションを取っていた。
大企業とスタートアップの連携、それぞれの立場から見える景色と示唆
本セッションでは、大企業とスタートアップの連携がどのように進化していくか、そしてオープンイノベーションが今後どのような方向に向かうべきかが議論された。特に、スタートアップとの連携がもたらすイノベーションの価値、企業の競争力強化の可能性、そして日本国内外におけるスタートアップ支援のあり方について、多くの示唆に富む意見が交わされた。
成功事例の積み重ねが鍵
MUFGの塚原氏は、日本企業がスタートアップとの連携をより積極的に進めるためには、成功事例を増やすことが重要であると指摘した。特に、ドイツのBMWやボッシュが行っている「ベンチャークライアントモデル」のような、スタートアップの技術を早期に取り入れ、それを企業成長の原動力にする取り組みを日本でも普及させるべきだという提言がなされた。これにより、大企業がスタートアップを「受注先」ではなく「共創パートナー」として捉え、より対等な関係を築くことが可能となる。
グローバル展開の必要性
KDDIの武田氏は、日本のスタートアップの成長を加速させるためには、グローバル展開が不可欠であると述べた。これまで日本国内にフォーカスしていたオープンイノベーションを、海外VCやグローバル企業との連携によってより広げていくことが、日本発のユニコーン企業を増やす鍵となる。KDDIの取り組みの一環として、海外展開を視野に入れたCVCの活用や、日本のスタートアップを海外企業と結びつける取組が進められている。
スタートアップ同士の連携が重要
ugoの松井氏は、オープンイノベーションの形態が大企業対スタートアップという一方向ではなく、スタートアップ同士の連携も重要であると強調した。実際に、ugoでは警備、点検、インフラ管理といった分野で他のスタートアップと協業し、新たな市場価値を生み出している。また、多く大企業と連携している経験から、このような取組は、革新的なソリューションを生み出し、「スタートアップ・エコシステム」を、より高く発展させることにつながる。
オープンイノベーションの未来
今後、日本のオープンイノベーションがさらに発展するためには、企業が「スタートアップフレンドリー」であることを競争力の一つとして認識することが求められる、ESGや脱炭素といった社会的価値と同じく、オープンイノベーションを推進できる企業こそが次世代のリーダーとなる。政府もスタートアップの製品・サービスの調達事業等を通じてこれを支援する方向にあるが、最終的には企業自らが「スタートアップと共に成長する文化」を醸成していくことが重要となることがわかった。
J-Startup選定企業によるピッチセッション Part.2
経済産業省の福本イノベーション政策統括調整官は、J-Startup第5次選定企業31社への祝辞を述べるとともに、J-Startup立ち上げ時から携わってきた立場として、官民一体でグローバルに戦えるスタートアップを支援するという取り組みの継続を強調しました。
1. EF Polymer
「オーガニック超吸水ポリマーで水不足問題を解決」
EF Polymerは、国際的な大学院大学発のスタートアップで、農業分野の水不足・干ばつ問題に対応するDeeptech企業。オレンジやバナナの皮など廃棄物をアップサイクルし、100%オーガニックの超吸水性ポリマー「EFポリマー」を開発。農業資材としての利用に加え、化粧品や医療分野への応用も進める。
2. 株式会社アークエッジ・スペース
「人工衛星を活用した宇宙ビジネスを支援」
アークエッジ・スペースは、東京大学の技術を基に人工衛星を開発するベンチャー企業。近年の小型・高性能化によって、人工衛星は一部の大企業や政府機関だけでなく、一般企業も活用できる時代に突入。しかし、衛星の利用方法が分からない企業も多い。そこで同社は、企業のニーズに応じた人工衛星の設計・開発から打ち上げ、運用までを提供する総合ソリューションを展開。
3. 株式会社ElevationSpace
「宇宙での実証・実験環境を提供する次世代プラットフォーム」
株式会社ElevationSpaceは「軌道上のヒト・モノをつなぐ交通網を構築する」をビジョンに掲げ、日本が世界に誇る小型再突入技術を軸に宇宙から地球への輸送サービス開発に取り組んでいるスタートアップ企業。東北大学やJAXAと連携し、宇宙の微小重力環境で研究開発・製造された物資を地球に運ぶ小型宇宙機の開発に取り組んでいる。
4. 株式会社Orbital Lasers
「レーザー技術で宇宙ゴミの除去と地球観測を革新」
株式会社Orbital Lasersは、理化学研究所と共同開発したハイパワーかつ小型・低コストな宇宙用レーザー技術を活用し、世界初のレーザー方式による「スペースデブリ除去」や、世界中をレーザーで高精度に計測する「衛星ライダー事業」を展開。地球と宇宙の未来を切り拓く。
5. 将来宇宙輸送システム株式会社
「再使用型ロケットで日本発の宇宙輸送革命」
将来宇宙輸送システム株式会社は、繰り返し使える再使用型ロケットを開発。日本が先行していた研究を事業として実装することで、宇宙輸送のコスト削減と高頻度化を目指す。大企業との共創を重視し、オープンイノベーションを推進する姿勢も特徴。
6. スペースワン株式会社
「日本初の民間ロケットで宇宙へのアクセスを革新」
スペースワン株式会社は、民間企業として日本で初めて人工衛星を搭載し、2度のロケット打上げを実施。自社専用射場「スペースポート紀伊」を拠点に、小型ロケットの開発から打上げまでを担い、利便性の高い宇宙輸送システムの確立を目指す。小型商用ロケットの実用化を推進し、日本の宇宙産業の発展に貢献する。
7. 株式会社BULL
「宇宙デブリ化防止技術で持続可能な宇宙環境を実現」
株式会社BULLは、ロケット上段部や人工衛星に装着するデブリ化防止装置を開発し、宇宙ゴミの発生を未然に防ぐ技術を提供。JAXAや欧州企業と連携し、持続可能な宇宙利用の実現を目指す。宇都宮発の宇宙ベンチャーとして、日本から世界市場への展開を進める。
8. 株式会社Pale Blue
「水を利用した革新的な宇宙推進技術」
株式会社Pale Blueは、水を用いた宇宙推進技術を開発。環境に優しく、長期的な宇宙探査ミッションにも適応可能な技術として注目されている。日本発の宇宙用エンジンメーカーとして、次世代の宇宙開発を牽引していく。
9. Letara株式会社
「安全なプラスチック燃料で高推力を実現する次世代宇宙機用エンジン」
Letara株式会社は、プラスチックを燃料とする高推力エンジンを開発し、人工衛星などの高速・力強い機動を可能にする。グローバル市場を見据え、スピード感と革新性で宇宙輸送の新境地を切り拓く。
10. 株式会社Helical Fusion
「地上に“太陽”をつくる、日本発の核融合スタートアップ」
日本の国立研究所の知見を受け継ぎ、2034年に世界初の定常核融合炉で発電を目指す。持続可能でクリーン・安全性の高い核融合エネルギーの普及を通して、エネルギー問題を抜本的に解決する。
11. ugo株式会社
「自律ロボットによる労働力補完」
ugo株式会社は、警備や点検などエッセンシャルワークを担うサービスロボットを開発。加速する人手不足と“フィジカル赤字”に対応し、現場データを活用した国産ロボットでAI進化を支える。海外依存に警鐘を鳴らし、日本発の産業基盤構築を目指す。
12. 株式会社イクスフォレスト セラピューティクス
「RNA標的の低分子創薬で“狙えなかった病気”に挑む」
株式会社イクスフォレストセラピューティクスは、RNAを標的とした低分子創薬で従来狙えなかった疾患に挑戦。世界唯一のRNAと化合物の結合選択性評価技術を持ち、大手製薬会社と共同開発を進行中。常温の飲み薬で世界に革新的な治療法を届ける。
13. ジェリクル株式会社
「世界初・均一網目のゲルで医療を革新」
ジェリクル株式会社は、世界で唯一“均一な網目構造”を持つハイドロゲル「テトラゲル」を開発。止血材としては“最強”とも言われる性能を誇り、幹部に塗布するだけで瞬時に止血が可能。医療分野を起点に、工業・農業への応用も進め、ソフトマテリアル時代のトップランナーを目指す。
14. トレジェムバイオファーマ株式会社
「“歯が生える薬”で永久歯のない未来を変える」
トレジェムバイオファーマ株式会社は、京都大学発のスタートアップ。先天的に永久歯が生えない患者に対し、抗体薬を用いて歯を再生させる世界初の治療法の開発をめざし、臨床試験を実施中。歯を失ってもまた生える、“歯を失うことが怖くない社会”の実現を目指す。
15. 株式会社Logomix
「次世代ゲノム編集で創薬・ものづくりを変える」
従来のCRISPR-Cas9に代わる、百倍〜千倍の高精度を誇る新しいゲノム編集技術を開発。創薬、培養、ものづくりに活用可能な高機能細胞を提供するゲノムエンジニアリング企業として、グローバル企業と共同研究を進める。オープンソース型で知の共有を目指す点でも注目されている。
16. 大熊ダイヤモンドデバイス株式会社
「究極の半導体“ダイヤモンド”を社会実装へ」」
大熊ダイヤモンドデバイス株式会社は、高耐久・高性能なダイヤモンド半導体の社会実装を目指す国発ベンチャー。東日本大震災時にダイヤモンド素材が極限環境下でも壊れなかった実績を背景に、国家プロジェクトの研究成果を民間で実用化するため設立。日本の未来を背負うテック企業として注目を集めている。
17. スペクトロニクス株式会社
「世界唯一の超短波長レーザーで半導体加工を革新」
スペクトロニクス株式会社は、266nmという深紫外域の超短波長レーザーを開発し、半導体微細加工分野で唯一無二の技術を確立。日本の大手電機メーカーが撤退する中、唯一の国産レーザー発振器専業企業として装置の中核エンジンを担い、チップレット実装など次世代半導体製造を支える。
18. 株式会社イノカ
「環境移送技術を用いた自然関連新規事業創出のプロフェッショナル」
株式会社イノカは、独自の生態系再現技術を開発し、ネイチャーポジティブ分野での活用を進めている。複雑な自然の理解を促進し、研究や教育・フォーラム型の取り組みが注目を集めている。
19. TopoLogic株式会社
「トポロジカル物質で熱センシングとデータ処理の省電化に革新を」TopoLogic株式会社は、量子特性を持つ新材料「トポロジカル物質」を活用し、超高速熱流束センサと省電力半導体メモリのハードウェア技術を開発。日本の強みであるエンジニアリング技術を生かし、緻密な熱管理と、データセンターの電力削減を実現する。
20. 株式会社DigitalArchi
「3Dプリンティングで建築を革新、循環型社会へ」
株式会社DigitalArchiは、廃プラスチックを活用した3Dプリント型枠で建築プロセスを自動化・効率化する慶應義塾大学発のスタートアップ。人手不足や環境負荷といった建築業界の課題に挑み、型枠の再定義「型枠2.0」により低コスト住宅の普及も視野に。建築を持続可能かつ創造的な産業へと導く。
臼井氏は「J-Startupの企業は日本の未来を支えるイノベーションの担い手。今後も世界に誇れる技術を磨き、グローバル市場へ挑戦してほしい」とピッチセッションPart.2を締めくくった。
グローバルに羽ばたく地域発ディープテック・スタートアップ創出に向けて
本セッションでは、日本の地域発ディープテック・スタートアップの成長とグローバル展開をどのように促進するかについて議論された。特に、スタートアップの支援体制や、海外市場へ進出するための戦略、大学やエコシステムの役割が焦点となった。
1. 地域エコシステムの発展と課題
内閣府・文部科学省・経済産業省は「スタートアップ・エコシステム拠点都市」として全国8都市を選定し、地域を含めた産学官金エコシステムの形成を推進している。特に北海道では「STARTUP HOKKAIDO」が設立され、自治体や大学、民間が連携してエコシステムを構築。しかし、課題として「稼げるスタートアップ」の創出と、海外との連携の不足が指摘された。例として大学発スタートアップにおける事業化支援の仕組みや、知財戦略、海外投資家との交渉能力を備えた専門人材の不足などが挙げられた。
一方で、特定分野に強みを持つ地域も出てきている。北海道では一次産業、宇宙、環境エネルギーを重点分野に据え、国内外のスタートアップ集積や実証フィールドの提供を進めている。これらの分野での成功事例を増やすことが、さらなるエコシステムの成長に寄与すると期待される。
2. グローバル展開の必要性
本セッションでは、特に創薬ベンチャーやディープテック系のスタートアップがグローバル展開を視野に入れる必要性が強調された。京都大学発の創薬ベンチャー「トレジェムバイオファーマ」は、その一例として紹介され、海外での臨床試験や資金調達に向けた取り組みを進めている。
また、海外投資家との関係構築が重要であり、特にアメリカの投資家は日本よりも大規模な資金を投入する傾向がある点が指摘された。日本国内での資金調達が難しい場合、グローバルな視点を持ち、早い段階から海外市場へのアプローチを進めることが鍵となる。
3. スタートアップ支援に必要な取り組み
今後、地域発のディープテック・スタートアップが成功するためには、以下のような支援が求められる。
● 重点支援の実施: すべてのスタートアップを均等に支援するのではなく、有望なスタートアップにリソースを集中させ、成功事例を生み出す。
● 知財戦略の強化: 海外展開を見据えた知財管理の強化と、特許取得を支援する仕組みを整備。
● 専門人材の確保: グローバル展開に必要な法務、ファイナンス、投資家対応の専門人材を育成・確保。
● エコシステムの連携: 東京だけでなく、全国の拠点都市や大学、産業界が連携し、オールジャパン体制で海外市場を狙う。
本セッションでは、日本の地域発スタートアップが世界市場で成功するための課題と解決策が議論された。特に、知財管理や資金調達、グローバル市場への適応能力の向上が今後の成長には不可欠である。今後は、政府・大学・民間が一体となり、重点分野への投資と戦略的な支援を進めることで、地域からグローバルに羽ばたくスタートアップの創出を加速させることが期待される。
デュアルユース分野におけるスタートアップへの期待と可能性
デュアルユース分野におけるスタートアップへの期待と可能性
本セッションでは、デュアルユース(民生技術の安全保障用途での利用)の可能性と、日本のスタートアップがこの分野でどのように成長できるかが議論された。ロシアによるウクライナ侵攻や米中間の地政学的緊張の高まりを背景に、日本の安全保障環境は複雑化している。その中で、官民が連携し、デュアルユース技術を活用することの重要性が強調された。
1.デュアルユースの必要性と現状
経済産業省の担当者によると、日本の防衛産業はこれまで特定の企業群に依存してきたが、今後はスタートアップや新規参入企業の技術活用が不可欠になる。特に、人工知能(AI)、ロボティクス、サイバーセキュリティ、宇宙技術などの分野は、防衛と民間の両方で高い価値を持つ。これらの技術を防衛目的にも応用することで、より強靭な安全保障体制の構築が可能となる。
一方で、日本ではデュアルユース分野における新規参入が長年にわたってあまり進んでこなかったこともあり、スタートアップがこの分野に参入しにくい状況がある。これに対し、アメリカでは政府がスタートアップを積極的に支援し、民生技術を安全保障用途で活用する仕組みが確立されている。この差を埋めるため、日本でもスタートアップがデュアルユースに取り組める環境の整備に向けた取組の強化が求められている。
2. デュアルユース・スタートアップにおける役割、取組と成果
パネルディスカッションでは、スタートアップがデュアルユース分野において求められる役割と参入に向けて求められる取組、そしてデュアルユースを通じて得られる成果が提示された。
• 期待される役割
科学技術が加速度的に発展していく中では、技術が陳腐化する前にスピード感を持って先端技術を活用することや、「新たな戦い方」が進む中では既存の考え方にとらわれない斬新な発想でデュアルユースに取り組むことがスタートアップに対しては求められる。
• 参入に向けて必要な取組
デュアルユース技術の活用には、政府との連携が不可欠である。スタートアップは、政策立案者や防衛関連機関に対して、自ら有する技術の活用可能性を積極的に提案・対話し、自社の技術がどのように防衛分野で活用できるかを明確にする必要がある。また、ベンチャーキャピタルなどのスタートアップ支援者が、そうした対話のハブの役割を担うことも有効である。
• デュアルユースを通じて得られる成果
デュアルユース分野への参入は高いハードルが存在するが、一方で、市場の拡大による多様なポートフォリオ構築、厳しい技術的フィードバックを通じた商用市場での信頼性向上など、スタートアップの次なる成長につながる成果も得られる可能性がある。
3. 今後の展望
セッションの最後では、日本のデュアルユース技術の未来について議論が行われた。参加者からは、日本が国際市場で競争力を持つためには、官民一体となったエコシステムの形成が不可欠であるとの意見が出された。特に、スタートアップの防衛分野への参入の取組はまだ始まったばかりである中で、政府、スタートアップ、ベンチャーキャピタルなど様々な関係者が知見を共有し、エコシステムの関係者それぞれが果たすべき役割に向けて議論を深めることが求められる。そうした観点からは、関係者が集い、自由闊達な議論を行える「コミュニティ」を構築し、その輪を広げていくことが重要である。
女性起業家セッション!グロースを視野に入れたアーリー期の事業展開のあり方
本セッションでは、女性起業家がアーリー期の事業展開をどのように進め、成長(グロース)を見据えた経営戦略を構築していくべきかが議論された。スタートアップの経営において、初期段階でどのような意思決定が求められるのか、また女性起業家ならではの視点や課題について、多角的な意見が交わされた。
1. 女性起業家の現状と課題
近年、日本において女性起業家の数は増加しているものの、依然として男性起業家に比べると少数派であり、資金調達や事業拡大の際に特有の課題に直面している。特に、ベンチャーキャピタル(VC)や投資家からの資金調達において、女性起業家が十分な支援を受けにくい現状が指摘された。また、スタートアップの初期段階では、適切なメンターやネットワークの不足が事業成長の妨げとなるケースもある。こうした状況を打開するためには、女性起業家同士のコミュニティ形成や、経営支援を目的としたプログラムの充実が必要である。
2. アーリー期に求められる戦略
パネルディスカッションでは、スタートアップのアーリー期においてどのような戦略を取るべきかが議論された。主なポイントは以下の通りである。
- 資金調達の工夫
女性起業家にとって、資金調達の選択肢を広げることが重要である。VCに頼るだけでなく、クラウドファンディング、助成金の活用、エンジェル投資家との連携など、多様な資金調達手段を考慮する必要がある。 - プロダクトマーケットフィット(PMF)の確立
アーリー期のスタートアップが成功するためには、市場のニーズに合致したプロダクトを構築することが不可欠である。実際にユーザーの声を聞きながら、迅速な改善を繰り返し、プロダクトの完成度を高めていくことが求められる。 - 経営チームの形成
創業初期のチーム構築は、事業の成長に直結する要素である。女性起業家が経営の中核を担う場合、異なる視点を持つ共同創業者やアドバイザーを迎え入れ、多様なバックグラウンドを持つチームを作ることが、成功への鍵となる。
3. 女性起業家支援の重要性
女性起業家を支援するエコシステムの必要性も強調された。投資家やメディアが女性起業家の存在をより広く認知し、支援の枠組みを整備することが、長期的にスタートアップの多様性を促進することにつながる。また、女性特有のライフイベント(出産・育児など)と事業成長のバランスをどう取るかについても、柔軟な制度や支援体制が求められる。
本セッションでは、女性起業家がアーリー期の事業展開をどのように進めるべきかについて、多くの示唆が得られた。資金調達、PMFの確立、経営チームの構築といった基本的な戦略に加え、女性ならではの課題を克服するための支援策の充実が今後の鍵となる。女性起業家の活躍が広がることで、スタートアップの多様性が促進され、新たなイノベーションが生まれることが期待される。
日本発Deep Techスタートアップからみる米国、東南アジア、欧州
本セッションでは、日本発のディープテックスタートアップが海外市場に進出する際の戦略や課題について、北米、東南アジア、欧州それぞれの地域特性を踏まえながら議論が行われた。登壇者は、実際に海外展開を進める日本のディープテック企業の代表者であり、それぞれの経験から得た知見が共有された。
1. 日本のディープテックスタートアップの現状
ディープテック分野は、基礎研究に基づく技術を活用した事業展開が特徴であり、長期間にわたる研究開発と大規模な資金調達が必要となる。日本国内では、大学発ベンチャーや大企業の研究機関からスピンアウトする形で多くのディープテック企業が誕生しているが、国内市場の限界や資金調達の難しさから、早い段階で海外展開を視野に入れる企業が増えている。
2. 北米市場:投資環境と技術採用のスピード
米国市場は、特にディープテック分野での投資環境が整っており、大規模な資金調達が可能である。シリコンバレーをはじめとするハイテククラスターでは、技術革新のスピードが速く、スタートアップが迅速に事業を成長させるためのエコシステムが形成されている。一方で、競争が激しく、現地のネットワークを持たない企業にとっては参入障壁が高い。登壇者の一人は、「米国の投資家は、技術そのものよりも市場での適用可能性やスケールアップの可能性を重視するため、研究成果の事業化戦略を明確に持つことが重要」と指摘した。
3. 東南アジア市場:成長市場としての可能性
東南アジアは、近年急速に経済成長を遂げており、新興国市場としての魅力が高まっている。特に、エネルギー、医療、環境技術などの分野で日本のディープテック企業にとって大きなビジネスチャンスがある。しかし、各国での規制や商習慣の違いが課題となることも多く、現地のパートナーとの協業が成功の鍵となる。登壇者は、「日本の技術をそのまま持ち込むのではなく、現地の課題に適応させる柔軟性が求められる」と述べた。
4. 欧州市場:規制と技術志向のバランス
欧州は、環境技術やライフサイエンス分野での規制が厳しい一方で、高度な技術を積極的に採用する文化がある。特に、カーボンニュートラルやサステナビリティを重視する企業が多く、日本のディープテック企業にとって適した市場となる可能性がある。ただし、規制対応やビジネスモデルの適合が求められるため、進出前の市場調査と長期的な視点が必要となる。
5. 海外展開に向けた課題と提言
本セッションの最後には、海外展開を成功させるために必要なポイントが議論された。
• 資金調達の多様化
日本国内だけでなく、海外の投資家とのネットワークを持ち、多様な資金調達手段を確保することが重要。
• 現地市場への適応
各市場の規制やニーズを十分に理解し、単なる技術移転ではなく、現地の課題解決型のアプローチを取ることが求められる。
• パートナーシップの強化
海外展開では、単独での事業展開は難しく、現地企業や政府機関との協力が欠かせない。
本セッションを通じて、日本発ディープテックスタートアップの海外展開には、市場特性を理解し、適応する戦略が不可欠であることが明らかになった。北米、東南アジア、欧州それぞれの地域で異なる課題と機会が存在するため、適切な戦略を立てることが成功の鍵となる。今後は、政府の支援策やエコシステムの強化を活用しながら、日本のディープテック企業がグローバル市場で活躍できる環境を整えていくことが求められる。
総括
「ブーム」から「カルチャー」へ。スタートアップが一時的な流行ではなく、日本の産業構造の一部となるためには、エコシステムの充実が不可欠である。J-STARTUP NIGHTは、その未来を垣間見る貴重な機会となった。
今後も、スタートアップと大企業、投資家、行政が一体となって、日本発のイノベーションを世界へと押し上げるための取り組みが求められるだろう。