【開催レポート】OIC CONNÉCT #06
多様な人が交流し、学びの機会を創出するプログラムとして立命館学園とVenture Café Tokyo(ベンチャーカフェ)が主催する「OIC CONNÉCT(オーアイシー コネクト)」の6回目が、2023年2月3日(金)に立命館大学 大阪いばらきキャンパスにて開催されました。
OIC CONNÉCT #06
OIC CONNÉCTは、毎月1回、立命館大学 大阪いばらきキャンパス(大阪府茨木市、通称OIC)にて開催されるイベントです。参加者はイノベーター達による講演やワークショップ等を通じて、学びながらネットワークを広げられます。
第6回となる今回は、以下の3つのセッションが行われました。
- ダスキンラボに学ぶ身近な課題を解決する新規事業〜さぁやろう!ぼくらも今日から創業者~
- イノベーションの足掛かりとなる「事業共創」のススメ
- アントレプレナーシップと僕たちのチームのつくり方
イノベーションや事業共創への取り組みや考え方だけでなく、熱い想いにも触れることができ、参加者それぞれの学びを深められる場となりました。
オープニングでは、OIC CONNÉCTやVenture Café Tokyoの世界観、参加者がお互いに安心して楽しむためのコツや簡単なコミュニティ・クレドの話があり、セッションに移りました。
ダスキンラボに学ぶ身近な課題を解決する新規事業〜さぁやろう!ぼくらも今日から創業者~
1963年の創業以来、生活者の課題を解決しながら事業を拡大している株式会社ダスキンにおける取組み事例をもとに、みんながワクワクするような「未来を創り出す場」であるダスキンラボの室長と事業開発や創業における大切な視点について考えました。
登壇者
- 山本 哲也 氏(Tetsuya YAMAMOTO)
= 株式会社 ダスキン 事業開発部 ダスキンラボ室 室長|経産大臣登録中小企業診断士|ビルクリーニング技能士|(一財)生涯学習開発財団認定コーチ - 服部 真人 氏(Masato HATTORI)
= 関西大学梅田キャンパスオフィス事務長
モデレーター
- 鍛島 宗範 氏(Munenori KASHIMA)
= 関西大学梅田キャンパス スタートアップ支援コーディネーター
事業の可否を決める起点
はじめに登壇者の山本さんと服部さん、モデレーターの鍛島さんの自己紹介がありました。そして、服部さんからは在籍する関西大学のHACK Academyという産学連携によるアントレプレナーシップ醸成プログラムについて、ダスキンの山本さんからはオープンイノベーションの出島としてのダスキンラボについて、それぞれ紹介いただきました。
「何を起点に事業をやるかやらないかを決めるのか」と鍛島さんから聞かれると、山本さんは「まず1番に、うちの顧客である女性や高齢者の役に立つのかを考えます。次に今あるリソースが使えるかどうか。加盟店組織やブランドとの親和性が高くないと社内で通りにくいんです。」と組織の事情も含めて答えました。
さまざまな事業にチャレンジするダスキンですが「新規事業には最初に設定される撤退基準があって、満たないと潔く撤退となります。」と山本さんは続けます。
それを聞いた服部さんは「ダスキンは攻める企業だというイメージがあります。試すけど引く、という企業文化があるんだなと、感心して聞いていました。」と感想を述べました。
バリュープロポジションキャンバス
ダスキン社内や山本さんが講演で使っているフレームワークが紹介されました。顧客が認識している”ニーズ”と顧客が認識していない”ジョブ”の違いを知り、自分たちが出来て他の誰も出来ない価値を見出すことで、自分たちが提供できる唯一の価値=バリュープロポジションが顧客へ提供すべき価値なのだと解説してくれました。
「難しそうですが、他と違えば必ず誰かが欲しがるはずです。一番簡単なのが地域限定にすること。このエリアでこれをできるのは私だけです、と言えれば差別化できています。」と山本さんは熱く語りました。
「顧客が解決したいことを見つけたら、解決できたら嬉しいことと、解決できなかったら嫌なことをそれぞれ考えることで、顧客が欲しかったものを見いだせます。」
アイディアを得るために何をすればよいですか?と聞かれると、「人を観察したり、話を聞いたりすることです。顧客の声を聞くことで新しいアイディアや、自分たちでは気づかないユーザー目線での改善のポイントが見つかります。」と山本さん。
学生がゼロからスタートするなら?
「ダスキンのような大きい会社になるとできることが多いと思いますが、学生がゼロイチから活動する場合は何から始めたらいいでしょうか?」とモデレーターの鍛島さんが聞きました。
それに対し山本さんは「企業のようにリソースがあると、それを使わなければならないという制限がありますが、なければ何でも自由にできますよね。学生さんなら、自分が困っていることから発想したらいいと思います。」と話しました。
「自由すぎて何から手をつけていいか分からない、という状況もあると思います。だったら何かテーマを与えて、場数を踏むことでブラッシュアップさせていけるものでしょうか?」と服部さんから疑問が投げかけられました。
山本さんは「フレームワークに日常生活の出来事や疑問を当てはめながら考えることがトレーニングになると思います。」と身近な事例を含めて説明しました。
山本さんはまとめとして、10秒で話せるサービスコンセプトのまとめ方を紹介しました。成功しているサービスにほとんど当てはまる内容なので、アイディアをまとめるトレーニングとしても活かせるそうです。
最後に、山本さんは「顧客を観察して話を聞く、を考えてほしいです。」と熱く語り、セッションを終えました。
イノベーションの足掛かりとなる「事業共創」のススメ
自社のみならず、様々な外部組織と一緒に取り組んでいく「事業共創」。ひとことで「共創」といっても、様々な手法があると言われています。ここでは、それぞれ下川氏が運営に携わっている NTT西日本の”QUINTBRIDGE”、川島氏が運営に携わっている東京・有楽町のワーキングコミュニティ”SAAI”というオープンイノベーション拠点と「事業共創のススメ」に迫りました。
登壇者
- 川島 健 氏(Takeru KAWASHIMA)
= 株式会社 ゼロワンブースター 取締役|株式会社 InnoScouter 代表取締役 - 下川 哲平 氏(Teppei SHIMOKAWA)
= NTT西日本|QUINTBRIDGEオープンイノベーションデザイナー
モデレーター
- 野崎 麻衣 氏(Mai NOZAKI)
= 大阪産業局 万博共創ビジネス推進部 共創ビジネスプランナー
事業運営で大切にしていること
セッションのはじめに、登壇者二人の自己紹介がありました。「日本を事業創造できる国にして、世界を変える」をコンセプトに、ベンチャー共創プログラムとしてスタートアップと大企業をつなぐコーポレート・アクセラレーターとなりイノベーション支援をしている川島さん。
NTT西日本が挑戦する”QUINTBRIDGE”という、社会課題を解決しようとする人であれば、すべて無料で利用できるオープンイノベーション施設の運営をしている下川さんが紹介されました。
モデレータの野崎さんからそれぞれの事業を運営する上で大切にしていることを聞かれると、川島さんは「会員のニーズを深くヒアリングして、私たちが人と人をつなぐサポートをすることで、会員に問題を解決して事業創造していただきたいんです。なので、どうつなぐかとか、どう目的達成のサポートをするかにリソースをかけています。」と話しました。
下川さんはQUINTBRIDGEのこだわりを話してくれました。「入会時には審査があって、社会解決を目指してビジネスを共創したいという想いは問いますが、業種・業界・規模はどはいっさい問いません。何と何がつながったらイノベーションが起こるか分からないので、多様性にこだわっているんです。」
コミュニティや共創を生み出す難しさ
お二人の経験を踏まえ、事業共創のすすめとして、コミュニティや共創を生み出す難しさを聞きました。
下川さんは「期待値コントロールをうまくやろうとしています。いろいろなイベントやミートアップをしていますが、一回で何かが組み合わさってうまくいくなんて、ほとんどあり得ません。大きな期待で来られると一回で終わってしまいがちなので、ゆるくつながっておく価値に重きを置くようにしています。」
川島さんは「コミュニティは偶発性に価値がある空間で、共創は新規事業や社会課題解決のための協業です。この二つが出会わなければイノベーションは起きないので、時間がかかる場合もあります。その時間をどこまで待てるか、という問題があると思います。」と時間軸に課題があることを指摘しました。
大阪と東京の違い?
大阪と東京でそれぞれオープンイノベーション施設を運営するお二人に、地域性の違いを聞きました。
下川さんは、スタートアップの成功に対する考え方に違いがあると話します。「成功とは何?となったときにIPOやM&Aというエグジットを語るケースが多いので、関西エリアで活躍する若者がそれを目指そうとすると資金調達額が圧倒的に多い東京へ行くことになります。ですが、QUINTBRIDGEに来るスタートアップの方々は必ずしもエグジットを目指していないんです。関西には、地域を幸せにするために活動していきたいと考えている人が多いと感じます。」と述べました。
東京がベースの川島さんは「東京ならではのリソースを考えると、世界でもトップクラスで上場企業が密集しているのが東京のユニークなポイントです。アメリカのように大企業が各地域に分散しているような国とは違う、東京らしさを活かしたエコシステムの構築ができればいいなと思っています。」と話しました。
最後に、残された短い時間で参加者と熱い質疑応答が行われ、このセッションを終えました。
アントレプレナーシップと僕たちのチームのつくり方
今、我々はどのように生き抜き、価値を創出していくべきか。VUCAとも称され、ますます不確実性の高まる現在、自身のあり方のアップデートが求められています。ここでは、武蔵野大学にて日本初のアントレプレナーシップ学部の設立を手掛ける伊藤羊一氏をお招きし、今求められるアントレプレナーシップとアントレプレナーシップ学部設立について、そして不確実な世の中を打開するリーダーシップのあり方についての対話を深めました。
登壇者
- 伊藤 羊一 氏(Yoichi ITO)
= Zホールディングス株式会社 Zアカデミア学長|武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)学部長|Voicyパーソナリティ
モデレーター
- 林 永周 氏(Yeongjoo LIM)
= 立命館大学 経営学部 経営学科 准教授
アントレプレナーシップ学部
伊藤さんが自己紹介を終えると、すぐにセッションに入りました。はじめにモデレーターの林さんが、アントレプレナーシップ学部が生まれた経緯を聞きました。
「社会を変えるならまず教育を変えないといけない、という発想からスタートしました。そこで武蔵野大学の西本学長を紹介されて会ったら、すぐに意気投合しました。最初は議論しただけだったんですが、数ヶ月後に学部を作らないか、と西本さんから連絡がきたんです。名前はいろいろ考えましたが、最終的にアントレプレナーシップに決めました。」と伊藤さんの想いが出会いによって実現化した経緯を話しました。
「開講してから2年経ちますが、各学年の学生と1年ごとに1on1を持つようにしています。そしていろいろな意見を聞くうちに、日本経済を再び活性化させる処方箋が見えた気がします。」と伊藤さんは手応えを熱く語りました。
3つの軸
伊藤さんはアントレプレナーシップ学部を設立するにあたり、3つの軸を設置しました。1つは、授業の中で起業すること。「大学で学んで社会人になって実行するのではなく、在学中に実行して振り返り、もう一度やってみる、というサイクルを作りたかったんです。」とその理由を話しました。
「2つ目として、教員はほぼ全員実務家教員にしています。アントレプレナーシップは明確な定義がないので、実務家教員それぞれが実行していることを構造化することにしました。実際は教員を集めるときにアカデミアの知り合いがいなかっただけなのですが、今ではそれでよかったなと思っています。」
3つ目に、1年生は寮で共に学ぶ、を挙げています。「いろいろな学生にヒアリングすると、授業の後はバイトに行くというんです。帰ってきた後にオンラインで話すことはできるけれど、授業が終わるとまた明日、となってしまうと。人間って夜は盛り上がるじゃないですか?だからバイトの後に、今日の授業でやったアレだけど、と学生同士が気軽にセッションできる環境を作ろうと思ったら寮だったんです。」と伊藤さんは寮生活の意図を明らかにしました。
「寮に関しては学生との1on1でも、授業も学びになるけれど同時に寮での学びがとても多い、という声を聞けています。寮で学生同士が刺激を与え合っているのを見ると、作ってよかったなと思います。」
日本経済を再活性化する処方箋
GDPの推移をみると、1995年 = インターネット元年から日本は成長を止めているのが読み取れます。1995年まではモノづくりで伸びてきましたが、インターネットによって個人の想いが現実化できるようになったあたりから伸びていません。
伊藤さんは「夢を否定されることなく自由に語って、讃え合うような環境が大切だと思います。財政・金融政策などのさまざまな政治的な施策がなされていても、結局のところ、日本の再生に重要なのは夢と語ることなんです。」と強く主張しました。
「夢を語り始めて日本に浸透させていけば、日本は変わる。その感触がある。」と伊藤さんは続けます。「あれこれ考えるよりもまず、夢に向かって突き進むエネルギーが大切なんです。」
無邪気に夢を語る
自分はこれをやりたい、みんなでやろう!という雰囲気を作りにくい日本。「企業の中でも、やりたいことを語ってそれを企業が後押しするような、無邪気に夢を声に出せるようになると日本は変わると本気で思っています。」と伊藤さんは夢を語る大切さを繰り返します。
「日本のGDPが伸びていた1995年まではモノづくりの時代が日本のカルチャーに100%フィットしていたと思うんです。けれど、夢を形にしなければならない時代になって日本は別の国になってしまった。」
モデレーターの林さんは「夢は大切だと思います。昔は企業や組織としてやりたい夢があったと思うんです。それが個別化されてきて自分の夢を言えなくなったのが問題なんですよね。」と合いの手をいれました。
それを聞いた伊藤さんは「インターネットは自分の夢を語れるツールなんです。むしろやらないと差がついてしまいます。日本はつねにモノづくりが得意な国だと思うので、自由な発想と組み合わせられたらビジネスにつながるのではないでしょうか。」と自身の見解を述べました。
質疑応答では、夢を応援し合う文化を作るというビジョンを掲げる学生から夢を形にするために必要なことを聞かれ、伊藤さんは「同士が必要で、同士というのは年齢や立場に関係なくフラットに語り合える環境に尽きると思います。」とアドバイスしました。伊藤さんはフラットな関係を大切にしており、独自の持論を展開しました。
最後に、伊藤さんのモチベーション維持についての質問と回答が熱く展開され、惜しまれつつ本日のセッションは終わりを迎えました。
最後に
ダスキンラボの取り組み事例をもとに、身近な課題を解決する新規事業の話から、オープンイノベーション拠点の運営や事業共創を進めるために日々奮闘しているお二人の声、そして世の中を打開するリーダーシップのあり方について考えた6回目のOIC CONNÉCT。次回は3月3日(金)を予定しています。どのような学びと繋がりが生まれるのか。皆様のご参加をお待ちしています。
詳細&Sign-up:https://oic-connect-7.peatix.com/