【開催レポート】OIC CONNÉCT #07

Venture Café Tokyo
16 min readMar 27, 2023

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多様な人が交流し、学びの機会を創出するプログラムとして立命館学園とVenture Café Tokyo(ベンチャーカフェ)が主催する「OIC CONNÉCT(オーアイシー コネクト)」の7回目が、2023年3月3日 (金) に立命館大学 大阪いばらきキャンパスにて開催されました。

OIC CONNÉCT #07

OIC CONNÉCTは、毎月1回、立命館大学 大阪いばらきキャンパス(大阪府茨木市、通称OIC)にて開催されるイベントです。参加者はイノベーター達による講演やワークショップ等を通じて、学びながらネットワークを広げられます。

第7回となる今回は、以下の3つのセッションが行われました。

  • シリアからAPUへ留学。そして日本のスタートアップへ。 ~難民の背景をもつ若者の挑戦~
  • 地域井戸端会議 ~起業でつくる地域おこし~
  • 地域に根ざしたコミュニティのつくりかた

また、今回から会場のみで行われるコンテンツが紹介されました。スタートアップや大学生が作ったプロトタイプを試せるデモテーブル、OIC CONNÉCT-U#1「PITCHの極意」という勉強会、オフィスアワーとしてピッチの壁打ちタイムなど、次回以降も継続されます。

オープニングでは、OIC CONNÉCTやVenture Café Tokyoの世界観、参加者がお互いに安心して楽しむためのコツや簡単なコミュニティ・クレドの話があり、セッションに移りました。

シリアからAPUへ留学。そして日本のスタートアップへ。 ~難民の背景をもつ若者の挑戦~

皆さんは難民と聞いてどのような印象をお持ちでしょうか?シリア出身のイブラヒムさんは、JICAが実施する「シリア平和への架け橋・人材育成プログラム (JISR) 」を通じて、大分県の立命館アジア太平洋大学 (APU) 大学院に留学するために来日しました。そんなイブラヒムさんがどのようにしてデータアナリストとして日本のスタートアップに就職したのか。イブラヒムさんのこれからの挑戦についてお聞きするとともに、日本の難民支援の現状や私たちにもできることについて考えました。

登壇者

  • イブラヒム・マーン氏(Ibrahim MAAN)
    = シリア・デリゾール出身
  • 金 辰泰 氏(Jintae KIM )
    = Welcome Japan 代表理事

モデレーター

  • 堂道 有香 氏(Yuka DOMICHI)
    = 元ソニーグループ株式会社 Sony Startup Acceleration Programアクセラレーター

地震後、シリアの今

モデレーターの堂道さんから登壇者のイブラヒムさんと金さんの紹介があり、セッションがスタートしました。まずはシリア出身のイブラヒムさんにとって大きな出来事であるトルコ・シリア大地震について、発生から1ヶ月たった今の状況を聞きました。

「地震の発生を知ったとき、初めは自分の家族が住んでいるエリアから離れているし、規模が小さそうだから大丈夫だと思っていました。シリアの家族には携帯がないので、連絡を取るのが難しい状況でした。親戚が亡くなったと聞いたり、とても心配していました。」とイブラヒムさんは家族の安否確認が大変だったことを話しました。

「戦争から逃れてギリギリの生活をしているところに大きな地震が重なり、支援が必要な人たちにさらなる支援が必要な状況だと聞いています。今はどのような支援が行われているのでしょうか?」と堂道さんは続けて訪ねました。

イブラヒムさんは「政府や近隣エリア、国連が入っていますが、今は食べ物やブランケットなどのベーシックな支援だけが行われています。トルコには各国からさまざまな支援が入っているのに対し、シリアは支援が少なくて大変でした。」と充分な支援が得られていない状況を話してくれました。

難民=Difficult Peopleという言葉

金さんに、1億人に達した難民を民間で支えるにあたって何が課題で、どのよう支援をしているのかを聞きました。

「そもそも”難民=Difficult People”という言葉が問題だと思っています。本来は避難民であって、難関を突破してきた人たちだと捉えることが大切だと思います。日本では、難民という背景があるだけで就労がすごく難しいのが現実です。言葉から生まれる誤解によって、優秀な人材が埋もれてしまっているんです。」

金さんは難民の現状を説明し、”難関を突破できる民”として難民がデジタルやDX人材として活躍できる支援に力を入れている社会的な背景や今後の展望を語りました。

では、国籍がシリアであるイブラヒムさんは、難民という高いハードルを乗り越えてどのように日本でのスタートアップに辿り着いたのでしょうか。

「JICAからは大学入学時から就職の話があり、プレッシャーを感じていました。就職を目指して420社くらい応募しましたが、ほとんど返事はなく、面接したのは5社だけでした。少人数のスタートアップであればいろいろ勉強できると思い、今の仕事に決めました。」と実情を話してくれました。

世界から選ばれる日本になろう

金さんは「ビザの問題はとても悩ましい」と切り出します。「難民という立場ではなく、技術を得て高度人材としてビザを得る道もあります。そのような支援をするため、難民に新しい道を開く団体を作ろうとしています。」

さらに金さんは「日本はこのままでいいのか、と思います。日本は少子高齢化で世界を先走っていますが、今後、他国が同じようになったときに、いかに外国人材を呼べるかが日本の成長のカギになるはずです。」と力を込めて語りました。

最後に、イブラヒムさんからシリアの現状を知ってもらうためのビデオがシェアされました。難民への支援を続ける大切さや手法についてのさまざまな意見が交わされ、本日一つ目のセッションを終えました。

地域井戸端会議 ~起業でつくる地域おこし~

政府は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付け、スタートアップ育成強化の方針となる「スタートアップ育成5か年計画」を発表しました。そんな中、地域単位でもスタートアップへの取り組みは加速しており、地域ごとに特色のあるスタートアップ支援が行われています。今回の地域井戸端会議では、滋賀県守山市から杉本氏、大阪府堺市から西浦氏、そしてJR西日本イノベーションズで『ワーケーション』・『多拠点居住』などの新しいワークライフスタイルに関するスタートアップ企業への投資を担当されている細川氏をゲストに迎え、スタートアップへの取り組みなどをテーマに対話を深めました。

登壇者

  • 杉本 悠太 氏(Yuta SUGIMOTO)
    = 守山市 都市経済部 地域振興課 係長
  • 西浦 伸雄 氏(Nobuo NISHIURA)
    = 堺市産業振興局産業戦略部 中百舌鳥イノベーション創出拠点 担当課長
  • 細川 美春 氏(Miharu HOSOKAWA)
    = 株式会社 JR西日本イノベーションズ CVCチーム リーダー

モデレーター

  • 吉川 正晃氏(Masaaki YOSHIKAWA)
    = 株式会社 Human Hub Japan 代表 | 阪急阪神不動産 株式会社 梅田事業創造GRP顧問 | 日本スタートアップ支援協会 顧問 | 大阪公立大学 健康科学イノベーションセンター 産学官連携ディレクター | J-Startup推薦人 | 中小企業診断士 | 元:大阪市理事

それぞれの活動

自己紹介において、モデレーターの吉川さんからは、大阪市が開設するOsaka Innovation Hub (OIH) を立ち上げたこと、大阪スタートアップ・エコシステムコンソーシアムの支援をしていること、ゆくゆくは産業を作りたいと考えていることを説明しました。

杉本さんは滋賀県守山市でボランチ型公務員として地域振興・スタートアップ支援・地方創生などを広く担いながら「起業家の集まるまち」を作るべく活動していることが紹介されました。

大阪府堺市で次世代のイノベーション創出に関わる西浦さんは、事例を含めながらさまざまな活動について説明しました。そして今後の取り組みや展望について熱意を持って話しました。

細川さんはJR西日本イノベーションズというJR西日本のグループ会社に所属し、地域共生の観点からスタートアップへ投資しつつ、鉄道以外での新しい収益を生み出せるように新しい事業を立ち上げようとしていることを紹介しました。

行政でのボランチというポジション

ボランチ型公務員と称する杉本さんに、具体的な活動について聞きました。

「行政で何かやろうとすると税金が伴うという理由で取り組めないことが多いんです。それを解決しようとすると、自分がプラットフォームとして行政と民間をつなぐのが自分に合うやり方だと思っています。」と杉本さん。

モデレーターの吉川さんは、杉本さんが取り組んでいた副業人材についても質問しました。

「東京のアナザーワークス (Another works) という、自治体に都市部の人材をプロボノ的に入れようと取り組んでいるスタートアップを利用して人材を募集しました。130人ほどの応募があり、最終的に4名を採用しました。」杉本さんは、毎週5人で集まって「どうしたら守山市に起業家が集まるか」を考えるフレームワークを繰り返したと言います。

メンバーの中には東京から参加する人もいたそうで「都市部の人と地域の人の感覚のズレを認識して修正することができたり、東京のメンバーからネットワークが広がったり、自分としてはとても意味がある取り組みでした。」と強い手応えだったことを話してくれました。

支援が地域に結びつく

続いて、堺市での取り組みを西浦さんに聞きました。

西浦さんは「堺市では、スタートアップが考える社会課題は生活の身近なところにあって、地域の人が求めているものが多い、と考えています。スタートアップやベンチャーを支援していると自然と地域に結びついていくと気づきました。」と堺市で次世代イノベーションを創出する活動の中での気づきを話してくれました。

「スタートアップやベンチャーの人たちはネットワークが広いので、さらに人を紹介してもらい、その人たちにも堺市の中で活動してもらって、堺市の中でどんどん循環させています。」事例を交えて具体的な取り組みが紹介されました。

西浦さんは「新しい価値を生み出そうとする人たちと行政の取り組みは、将来を考える上でとても大切だと思います。」と活動の重要性を主張しました。

昨年より副業を解禁したJR西日本。細川さんはどのような変化を感じているでしょうか。

細川さんは「JR西日本の強みを活かして自治体や町づくりに関わることが多く、まずはそこからです。コンソーシアムについても、いかに多くの人が西日本各地に足を運んでもらえるかというテーマについて協力して発信力を高められたり、補助金を有効に利用して人を呼び込めたり、社内でもいろいろな活動をやっていこうという雰囲気が広がってきました。」と話しました。

行政と民間それぞれの立場で自由にオープンに発言する井戸端会議は、登壇者たちの地域へ向けた熱い思いと強い行動力を感じるセッションとなり、終わりを迎えました。

地域に根ざしたコミュニティのつくりかた

昔から「ご近所さん」「町内会」「自治会」などの単位でつながっていた地域コミュニティ。滋賀県彦根市稲枝地区を中心に、医師と建築士が仕掛ける、新しい地域コミュニティのカタチ「くわくわ企画」の全貌について聞きました。コミュニティづくりや場づくりの大切な視点について考えるセッションとなりました。

登壇者

  • 徳田 嘉仁 氏(Yoshihito TOKUDA)
    = 医師、一般社団法人くわくわ企画代表理事、みんなで遊ぶフェス!ONE MUSIC CAMP救護班統括
  • 岡山 泰士 氏(Hiroshi OKAYAMA)
    = ⼀級建築⼠事務所STUDIOMONAKA 共同代表

モデレーター

  • 後藤 友美 氏(Tomomi GOTO)
    = 株式会社SUSTAINABLEME CEO、FeMind創設者

診療所への想い

はじめに、徳田さんは医者でありながら地域コミュニティにどのように関わりながら医療を提供するかを考えて活動していること、岡山さんは建築家で京都の公園を活動拠点としてコミュニティを運営していること、そして2人の出会いはそのコミュニティがきっかけだったことが紹介されました。

2人は「寄り道したくなる診療所」を作ろうとしています。なぜ地域に接続していくコミュニティを作りたいのでしょうか?

その理由について徳田さんは「離島の救命救急で働いていた経験から、人の生活や人生の豊かさにどうコミットすれば良いかを考えたんです。」それから地域やコミュニティをマネジメントするようになったそうです。

コミュニティを広げる

診療所のイメージと土地はあるものの、まだ建物はなく、コミュニティの活動の場を広げている2人。ネットワークが広がった経緯を話してくれました。

岡山さんは「徳ちゃんがいろんな形でイベントや、行きつけの喫茶店に通う中で仲間が増えていったよね。」と切り出します。

徳田さんから「その喫茶店は地域のプレーヤーが集まる場所で、通っていると人と繋げてくれるようになる。行きつけの喫茶店を作ることが地域のコミュニティを立ち上げるキーアクションになります。」と極意が伝授されました。

「どの町にもコミュニティスポットとして感度の高い人たちが集まる店がいくつかあって、そういう場所に接点があるといい形で仲間が増えていくんですよね。」と岡山さん。

そして「コミュニティを作ろうと思ったとき、想いを語るだけでなく、自分たちが想う世界を表現する場に一緒にいること。場を経験して感じてもらえることは多いと思います。」と続けます。

徳田さんが”場”について話しました。「診療所に対する解像度が低かったとき、とにかくイベントを開催してみました。診療所の話はひとつもせず、そこに流れている空気や温度感を自分達が作っていきたいコミュニティに合わせながら作りました。そうすると共感して参加したいと言ってくる人が現れます。」

「目的と関係性の固定化をはずす」ことで本来は出会わなかったであろう人が興味を持ってコミュニティに入ってきてくれるのだそう。「入ってきてくれたタイミングではじめて、診療所の話をすると参加メンバーになってくれたりするんです。」

「僕らの話がとても散らかっているように思うかもしれませんが、今は事業自体が拡散のフェーズだからです。コミュニティ初期では散らかっている状態がすごく大事なので、意識的に拡散させています。」と徳田さん。

岡山さんは「コミュニティが成長する過程では混沌とする時期があって、それを抜けた先にはっきりしたビジョンが見えたり、まとまった形になったりしますよね。混沌とする時期があると知っておくと良いです。抜ける瞬間があると知っているとコミュニティを運営しやすくなると思います。」とコミュニティの進化について話しました。

大切にしている独自の視点

2人がコミュニティを運営する上で大切にしていることは何でしょうか。徳田さんは独自の視点を述べました。

「コミュニティを立ち上げるときに、社会課題から入らないようにしています。とにかく、自分が楽しいことをやる。まずは自分のワクワクを大切にして、その気持ちが周りに伝わっていって、いつの間にか社会を変えている、というのが健全だと考えています。」

Q&Aでは参加者から「社会課題から入っていたので、ワクワクを大切にしてもう一度考えたい」という意見がありました。

徳田さんは「社会課題から取り組む視点は大事ですが、僕は、視点とベクトルを間違えてはいけないと考えています。社会課題から入ると自分という存在が小さくなるし、継続性が下がりますが、自分のワクワクに視点があると長続きしますし、自己満足にならないようにベクトルを社会に向けられると良いアイディアが生まれやすくなると思います。」と答えました。

とても盛り上がった2人のセッション。時間となり、惜しまれつつも本日最後のセッションが幕を閉じました。

最後に

JICAが実施する「シリア平和への架け橋・人材育成プログラム (JISR) 」を通じて、大分県の立命館アジア太平洋大学 (APU) 大学院に留学するために来日した留学生の挑戦と共に、日本の難民支援の現状や私たちにもできることを考え、関西地域ごとに特色のあるスタートアップ支援を知り、起業を通じた地域コミュニティづくりや場づくりの重要性を感じた7回目のOIC CONNÉCT。次回は4月7日(金)を予定しています。どのような学びと繋がりが生まれるのか。皆様のご参加をお待ちしています。

詳細&Sign-up:https://oic-connect-8.peatix.com/

※OIC CONNÉCT#7中に行いましたトルコ・シリア大規模地震に募金4,594円は立命館アジア太平洋大学を通して寄付をさせて頂きました。募金頂いた皆様ありがとうございました。

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