【開催レポート】レオファーマ株式会社・CIC Tokyo・Venture Café Tokyo主催ライフサイエンスの夏祭り 「LIFE SCIENCE CONNECT 2021」

Venture Café Tokyo
25 min readOct 4, 2021

日本のライフサイエンス領域における、イノベーションエコシステムの形成をテーマとした「LIFE SCIENCE CONNECT 2021」を2021年8月26日にCIC Tokyoで開催しました。レオファーマ株式会社(本社: 東京都千代田区、代表取締役社長:ラブダ・トード、以下「レオファーマ」)、CIC Tokyoに拠点に活動するイノベーターコミュニティ「Venture Café Tokyo」と共に、ライフサイエンスに関わる研究者、起業家、投資家、自治体、企業の担当者など、約300名(うち現地50名)が参加し、イノベーションを取り巻く最新の情報や、ライフサイエンスエコシステム形成に向けた課題の共有が行われました。

「ニッチを攻める研究者ピッチコンテスト」では宮崎 拓也 氏(神奈川県立産業技術総合研究所)の「妊娠期の化学療法に向けたナノ医薬の開発」が最優秀賞に選ばれました。

イベント開催の背景

2020年以降のCOVID-19の発生により、これまで以上にライフサイエンス分野のイノベーションとその社会実装が求められています。絶えず産まれ来る社会課題を解決するために、私たちは、関係する全てのステークホルダーが信頼に基づく関係性を築き、皆でイノベーションの輪を広げ、様々な利害や所属、肩書きを乗り越えた新しいつながりが必要だと考えます。

そこで、「LEARN. CONNECT. SHARE.」をコンセプトに、ライフサイエンスに関わる全ての方、あるいはシンプルに興味のある方が集い、カジュアルな環境で学び合い、繋がり、思いを共有する場として「LIFE SCIENCE CONNECT 2021」を開催いたしました。

イベントサマリー

本イベントは、以下5つのセッションから構成され、ライフサイエンスに関わる幅広いテーマを扱ったイベントとなりました。研究者、起業家、投資家、自治体、大企業、スタートアップなど、各分野の最前線で活躍する方々総勢27名が登壇されました。

コロナ渦で開催された本イベントは、”日本のライフサイエンスの未来を創るために”というテーマのもと、LEO SCIENCE & TECH HUBが支援するライフサイエンスコミュニティ「EMERGENCE*」の一環として、オンラインとリアル会場(CIC Tokyo)のハイブリッドで開催いたしました。緊急事態宣言下で移動が困難な状況において、ハイブリッドにしたことで遠隔地の方も参加することができ、約300名の参加者となりました。来場者属性の特徴として、民間のライフサイエンスイベントにも関わらず、政府関係者が9.8%、アカデミアが8.3%と、企業以外の参加者が多く参加されており、幅広い層にリーチすることができました。

イベント後には、各登壇者へのコンタクト依頼フォームを使って、参加者から登壇者へのコンタクトを希望する依頼が多く寄せられました。このイベントを通して、主催のEMARGENCE(*)コミュニティへの参加にもつながり、新たなライフサイエンスコミュニティの発展に資する活動となりました。

*EMERGENCEについて
定期的にキーイノベーターをお呼びしたライフサイエンスをテーマとしたセッションを実施して議論を深めることで、日本のライフサイエンス・エコシステムの創出と活性化を狙いとします。<http://venturecafetokyo.org/emergence/>

運営事務局/問い合わせ先:hello@venturecafetokyo.org

■レオファーマ株式会社について
レオファーマ株式会社は、デンマークにある LEO Pharma A/S の 100%出資の日本法人として 2010年 6月に設立されました。皮膚科領域に特化したスペシャリティファーマとして日本での確固たる地位を築くべく、事業活動を展開しています。詳細は http://www.leo-pharma.jp/をご覧ください。

■CIC Tokyoについて
CIC Tokyoは、虎ノ門ヒルズに2020年10月オープンする、日本最大級のイノベーションコミュニティです。スタートアップ(起業間もない、急成長を目指す企業)を中心に200社以上の企業や団体が入居できる広大なワークスペースと、ビジネスの成長とグローバル展開を加速するためのコミュニティやサービスを提供します。詳細は https://jp.cic.com/ をご覧ください。

■Venture Café Tokyoについて
Venture Café Tokyo は”Connecting innovators to make things happen”をミッションに掲げ、起業家や起業を志す人、投資家、研究者等、多様なイノベーター達が集い、繋がり、これまでにないイノベーションを社会に対して生み出すコミュニティです。2010年にボストンで設立されてから拡大を続けるグローバル・ネットワークにおける、アジア初の拠点です。詳細は https://venturecafetokyo.org をご覧ください。

【プログラム】
2021年8月26日(木)5pm~9pm
会場:CIC Tokyo、オンライン

<STAGE : A>
17:00~18:00 スタートアップから見たライフサイエンスエコシステムの現状と課題
18:30~20:30 ニッチを攻める研究者ピッチコンテンスト

<STAGE : B>
17:30~18:30 アントレプレナー型研究者のマインドセット
19:00~20:00 ライフサイエンス推しの自治体集まれ!
20:00~21:00 イノベーションがもたらす医療の未来

当日の様子。登壇者・参加者ともに現地・オンライン参加のハイブリッド形式にて開催

セッションレポート1
スタートアップから見たライフサイエンスエコシステムの現状と課題

いかにして私たちは次世代に誇れる日本のライフサイエンスエコシステムを築くのか。まず、投資家の立場から、深津氏(株式会社ファストトラックイニシアティブ アソシエイト、薬剤師、弁護士)から、「エコシステムとは、ハロー効果に基づく好循環を生み出す、いわば“エコヒイキ”システムと言い換えられる。日本には、ペイパルマフィアのような、成功が成功を生み、次のトレンドを自分たちが作り出していくという仕組みには至っていないのが現状。日本のライフサイエンスVCの投資規模が民間に比べてまだ少ない現状や、大学発シーズの競争力、特許出願のあり方、などについて話を伺いたい」という幅広いテーマの投げかけからパネルトークがスタートしました。

慶應義塾大学医学部所属でかつ、バイオベンチャーのCSOでもある早野元詞氏(生命科学博士)からは、「アカデミアの立場からも、大学のTLOがうまく機能していないことや、経験豊富なアドバイザリーボードとしての役割が充実していないなど課題を感じている。研究者が大学の外へ新しいつながりを求めて積極的に働きかけを行う機会を増やすと同時に、これまでの常識にとらわれない“逆走と多様性”が重要」との意見が語られました。再生医療ベンチャーの株式会社メトセラのCo-CEO野上健一氏は、テック業界の成功事例からもライフサイエンスが学べることが多くあると言い、「大学が良いシーズを製薬会社に持っていけば全て解決するというものではなく、課題解決を繰り返すことで事業の精度が高まり、アービトラージやキャピタルゲインによって利益を得ることができるといったところにベンチャーの価値がある。CICのような場所で領域を超えたつながりを持つことがエコシステム形成には重要」と、ベンチャー企業の役割の重要性が語られました。創薬ベンチャーのモジュラス株式会社CSO寺田央氏からは、「例えば、特許申請やPCTなど企業にとって当たり前のことがアカデミアではまだできていないのは、人の流動が足りていないことが原因ではないか。起業家やVCだけではなく、周辺で支える様々なステークホルダーを含めた人的なエコシステムの形成が重要だと考えます」と、改めてエコシステムの重要性を語られました。

左から、モデレーター:黒田 垂歩(レオファーマ LEO Science & Tech Hub シニアディレクター)、寺田 央 氏(モジュラス株式会社CSO)、深津 幸紀 氏(株式会社ファストトラックイニシアティブ アソシエイト)、早野 元詞 氏(慶應義塾大学医学部精神神経科特任講師)、野上 健一 氏(株式会社メトセラCo-CEO)

最後に、モデレーターの黒田氏から、ボストンの世界最大規模のバイオテクノロジーコミュニティの成り立ちに触れ、「日本においても、ライフサイエンスは将来大きな成長が見込める産業として期待されており、投資家や国からも資金が投入され始めています。より多くのイノベーションを日本から生み出すために、大学、研究機関、スタートアップ、投資家、大企業などの業界プレーヤー同士の距離をもっと近くし、仕事という枠を超えた新しいつながりを作り、ミッションを共有することができるような場づくりを積極的に行っていきたい」と締めくくりました。

セッションレポート2
ニッチを攻める研究者ピッチコンテスト

日本の研究資金は全体的に減少しており、選択と集中でニッチな研究にお金が流れにくくなっているなか、人と違う領域で自分の強みは何かを考え、自分の好奇心に忠実に追いかけて研究を行っている研究者にスポットライトを当て、イノベーションの輪を広げていくことを目的として「”ニッチを攻める研究者”を対象としたピッチコンテンスト」を開催いたしました。全国から8人の研究者が登壇し、「必ずしも本流とは言えないけど、愛するテーマに人生を捧げています」「この研究、みんな気付いてないけど実は世界に革命を起こし得るんです」そんな想いをピッチ形式で発表していただきました。

結果発表と受賞者コメント

【最優秀賞】

神奈川県立産業技術総合研究所 宮崎 拓也氏

テーマ「妊娠期の化学療法に向けたナノ医薬の開発」

胎盤を通る薬を一回り大きなカプセルに入れることで赤ちゃんへの影響を抑え、お母さんの乳がん・早産・妊娠高血圧を安全に治療することを目的とした安全な化学療法を実現しました。従来のサイズの小さな薬が胎盤を透過し赤ちゃんに毒性を示した一方で、薬をナノサイズ(髪の毛の10万分の1)のカプセルに入れサイズを大きくすることにより、胎盤を透過しなくなりました。その結果、赤ちゃんへの毒性を減らしながら母親の乳がん・早産・妊娠高血圧の治療に成功しました。この薬が実用化されることで、「生命の誕生の瞬間における母体/胎児の生命の危機という矛盾」が解消された、妊婦さんが安心して出産できる世界を実現します。

【受賞者のコメント】

5分という短い時間での難しい発表でした。ニッチの研究というすそ野が広いところが日本の研究のいいところだと思いますので、その中からどんどん面白い研究が注目されることを期待しています。これからも日本のライフサイエンスを盛り上げて行くべき、研究を続けていきたいと思います。この度はありがとうございました。

【すべての登壇者】
01. 徳島大学バイオイノベーション研究所 渡邉 崇人氏
「食料問題を解決するための循環型食用コオロギタンパク質の開発」
02. 北海道大学大学院先端生命科学研究院 西村 紳一郎氏
「動的エピトープ理論による革新的創薬」
03. 一般社団法人Privacy by Design Lab 栗原 宏平 氏
「生活者のウェルビーングを考えるプライバシーリスク研究」
04. 神奈川県立産業技術総合研究所 宮崎 拓也氏
「妊娠期の化学療法に向けたナノ医薬の開発」
05. 島根大学生物資源科学部 吉田真明氏
「海洋生物の進化的特異点のメカニズム解明に向けて」
06. 慶應義塾大学医学部医学科 藤田優梨香氏
「乳癌患者の術後療法における副作用管理デバイスの開発」
07. 株式会社IDDK 上野 宗一郎氏
「ワンチップで顕微観察を行う顕微観察デバイス(MID)の開発」
08. 国際大学薬学部 新倉雄一氏
「卵からはじめる、ウイメンズヘルスケア」

【審査員からのコメント】

高橋 祥子 氏 株式会社ジーンクエスト 代表取締役
どれも大変興味深く皆さんの熱意が伝わってきた発表でした。最優秀賞に選ばれなかった皆様にお伝えしたいのは、他人からの評価を気にせず、これからも研究を続けてほしいということです。私自身も創業当時は500回ぐらい否定された経験がありますが、それでもあきらめずに研究を続けた結果、今があります。皆さんも是非このまま素晴らしい研究を続けていただきたいと思います。今日は本当にありがとうございました。

柴藤 亮介 氏 アカデミスト株式会社 代表
今日は面白く魅力的な発表をありがとうございました。これから起業される方、起業を目指して研究される方がいらっしゃると思いますが、是非またこういう場に出ていただき、新しいつながりを作りながらご自身の研究を加速させていく機会をつかんでいただけたらと思います。本日はありがとうございました。

武内 歩 氏 メルク株式会社 ライフサイエンスコマーシャルマーケティング
皆様今日はお忙しい中ご参加くださりありがとうございました。どの研究も面白く、もっと聞いていたかったというのが審査員全員の感想です。5分という難しい形式での発表ではありましたが、非常に凝縮した内容で聞き応えがありました。今後様々な場所でまたお目にかかれることを楽しみにしております。本日はありがとうございました。

セッションレポート3
アントレプレナー型研究者のマインドセット

研究者が経営を担う大学発ベンチャー企業は数多くみられるものの、大学の教職員による事業運営の難しさも指摘されています。今後の大学発ベンチャーのあるべき方向性について、研究の世界からビジネスの世界へ転身を遂げた経験を持つ二人による、アントレプレナー型の研究者に必要なマインドセットについて、これまでの様々なご経験からお話しいただきました。

(左)中原 拓 氏 メタジェンセラピューティクス株式会社 代表取締役社長CEO (右) 森 文隆 氏 大鵬イノベーションズ合同会社 パートナー

小さいころから研究者になりたかったというお2人に共通しているのが、米国ボストンでの駐在経験。様々な経験を通して日本のライフサイエンスイノベーション環境の課題について、森 文隆 氏(大鵬イノベーションズ合同会社 パートナー)は、「アメリカのベンチャー企業の中で、日本人の論文(発明発見)が引用されているケースが多いことに驚き、改めて日本のサイエンスレベルは非常に高いと気づかされました。しかし、日本ではその優れたサイエンスが起業や提携によって社会実装化されるケースはまだまだ少ないと感じます。例えば、知財は大きな利益を生む重要な要素ですが、日本のアカデミアには特許戦略・知財の商業化・技術移転/ライセンス契約といった製薬業界の専門的な知識を持つ人材が圧倒的に不足しています」と、イノベーション環境における人材の課題を指摘されました。大学の教職員による事業運営の難しさについて、現在、起業家でありベンチャーキャピタリストとしても活動している中原 拓 氏(メタジェンセラピューティクス株式会社 代表取締役社長CEO)からは、「研究以外何も知らなかった自分としては、海外でMBAを取得したことや、ベンチャーキャピタル(以下VC)での経験が、非常に役に立っています。VCでは、日々大量の、細部までこだわり練り上げられた様々な事業プランに直接触れることができます。何が評価されるのか、どう問題を解決して次につなげていくのかを学ぶ場としては、これほど教育効果が高いところは他にはないと思います。会計、財務、法務といったベンチャー経営に必要なハードスキルと、マインドセットやメンタリティといったソフトスキルの両方を身につけられる機会を得られました。」と、VCでの活動が今のベンチャー経営に大きく役立っていると述べられました。森氏が所属する大鵬イノベーションズのようなCVCも、企業が人材育成という観点から行っている側面もあり、サイエンスからビジネスまですべてを評価しなければならないということから、ビジネスの経験を積むことができ、教育的効果は大きいと言います。

研究者向けたメッセージとして、「サイエンスの基本である探求心や分析力はビジネスでも非常に役に立つスキル。自分で新たな仮説を立ててそれを解く、という研究のプロセスと同じなので、博士課程に行った人はむしろ起業に向いていると思います。共感者を増やし、人を巻き込み、お金を集めるというこれまでの活動が必ず役に立ちます。」と、研究者による起業がライフサイエンスエコシステムの形成に大きな価値があるとエールを送られました。

セッションレポート4
ライフサイエンス推しの自治体集まれ!

エコシステム醸成において、政府や自治体もまた不可欠なステークホルダーです。本セッションでは、バイオ・ライフサイエンスに注力する国内の自治体の担当者をお呼びしてそれぞれの取り組みの発信や意見交換を行いました。また、セッションを通じて登壇者同士、登壇者とオーディエンスなど人的ネットワークの更なる涵養も企図しました。まず初めに、ご登壇された各自治体の方から、それぞれの取り組みについてご紹介いただきました。

【自治体による取り組み紹介】

野口 毅 氏 公益財団法人神戸医療産業都市推進機構
https://www.fbri-kobe.org/

牧野 直史 氏 日本貿易振興機構(JETRO)京都貿易情報センター所長
https://www.jetro.go.jp/jetro/japan/kyoto/

飯田 剛史 氏 札幌市経済観光局 健康医療バイオ産業担当係長
SAPPORO BI LAB https://www.sapporo-bilab.com/
STARTUP CITY SAPPORO https://startup-city-sapporo.com/

武田 泉穂 氏 K-NICスーパーバイザー(川崎市)
Kawasaki-NEDO Innovation Center(K-NIC)https://www.k-nic.jp/

山崎 由貴 氏 茨城県技術革新課 企業支援監
茨城県 創業・ベンチャー支援
https://www.pref.ibaraki.jp/shokorodo/sangi/sougyou_venture.html

モデレーター:黒田 垂歩 氏 レオファーマ LEO Science & Tech Hub シニアディレクター

ライフサイエンスにおける自治体の取り組みの課題として、23年間という長年取り組みをされている神戸市の野口氏からは、「どの自治体でも、とにかくまず数を集めたいと様々な施策をしていると思いますが、ただ数を集めればいいというものではなく、集まった企業の方々をどう活性化していくかも含めて、早い段階から取り組まれることをお勧めしています。」と述べられました。最近地元に根付いたファンドを設立した札幌市において、設立当社から関与していた飯田氏からは、「当時、札幌にはVCが全くなく、スタートアップの方は毎週東京に出張しているという状況でした。移動の時間がもったいないということから、必要に迫られてファンドを作りました。」と地域によって取り組む順番にも違いがあることが分かりました。また、VCの目利きをどうすればいいかという質問に対して、茨城県の山崎氏からは「私たちはVCの目利きということに対しては素人なので、やはり人とのつながりが重要だと思っていて、CICやVenture Café Tokyoさんだけでなく、他にも様々な方々と連携して有益な情報をいただけきながら進めています」と、横のつながりの重要性を述べられました。今後の自治体連携について、川崎市武田氏からは、「川崎市のベンチャーさんが、神戸でビジネスを展開するということも十分ありますし、必ずしも東京を経由する必要はないと思っています。日本の数少ないライフサイエンスベンチャーをみんなで応援して、直接世界に羽ばたけるよう日本全体でサポートしていきましょう!」という呼びかけをいただきました。また、JETRO京都牧野氏からは、「京都市とボストン市の姉妹都市締結60周年を契機としたライフサイエンス分野をはじめとする交流促進の取組の一環として、米国のBioLabs(*)を是非日本にも呼び込みたいと考えています。京都市だけでなく自治体同士で協力して、日本全体として誘致できるような“自治体連合”を皆さんと一緒に作っていきたいです」との提案があり、このイベントを通して新たなつながりが生まれました。

  • BioLabsについて
    マサチューセッツ州のケンブリッジが発祥のインキュベーター。ライフサイエンス系のスタートアップ企業を入居させ、成長に必要な実験機器や各種サポートをワン・ストップで提供する。米国に10拠点を持ち、現在ヨーロッパや日本へ向けてグローバル展開を進めている。

セッションレポート5
イノベーションがもたらす医療の未来

大学発の新技術や医療データの活用が、医療を新たな地平へと導くと信じられています。本セッションでは、確実に来る10年先・20年後の医療について、単純に「高齢化社会」を憂うだけではなく、現在見えているイノベーションの可能性とその社会実装における課題についてより精度を上げて議論が行われました。また、COVID-19対策で社会に大きな影響を及ぼしていることが浮き彫りになった「医療」と「情報」の密接な連携について、臨床医兼起業家、医療情報専門家、創薬専門家をお呼びしてお話しいただきました。

登壇者
池浦 義典 氏 Axcelead Drug Discovery Partners株式会社 代表取締役社長

竹下 修由 氏 国立がん研究センター東病院 機器開発推進室長/スタートアップ支援室長/大腸外科 消化器外科医

鎌田 真由美 氏 京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻 バイオメディカルデータサイエンス分野 准教授 【オンライン参加】

黒田 垂歩 氏 レオファーマ LEO Science & Tech Hub シニアディレクター

モデレーター:小栁 智義 氏 筑波大学医学医療系 教授 | つくば臨床医学研究開発機構TR推進・教育センター長(兼)京都大学医学附属病院クリニカルバイオリソースセンター研究員

医療データベース(以下DB)へのAIの活用事例として、臨床現場での開発を重視した取り組みを行っている竹下 修由 氏(国立がん研究センター東病院 機器開発推進室長/スタートアップ支援室長/大腸外科 消化器外科医)からは、「情報のAIへの活用では、まずはUI等のナビゲーションのところで実装されています。ディシジョンアシスタンスは難しいテーマですが、実臨床でもある程度これまでのガイドラインで進められるものも多い中、本当に情報が生きてくるのは、難治症例や希少疾患といったアップデートの早いレアなケースだと思います。」と、創薬や医療機器では今までアプローチが難しかった希少疾患でのデータ活用が期待されるという考えが述べられました。

また、創薬企業の立場である黒田 垂歩 氏(レオファーマ LEO Science & Tech Hub シニアディレクター)からは、「例えば、ガンを希少疾患の集合体と捉えると、DBを活用することでパーソナライズド・メディシン(個別化医療)が今後もっと活発化すると考えています。データを集めれば集めるほど、大きな集団の中でどの位置にいるのかがより具体的になり、全ての疾患がレア・ディジーズになっていく。それぞれの疾患と治療薬のマッチングをAIが行うことで、希少疾患に対する創薬が大きく前進するのではないか。それらを見据えた上でどうやってDBデザインしていくか、各人が本気で取り組む必要がある」と述べられました。

竹下氏から、「DBを構築するうえで難しいのは、このデータを誰が持つべきなのか」という問いかけに対して、ビックデータを使ったメディカル領域の技術開発を目的に、医療データサイエンス人材を育てる取り組みを行っている鎌田 真由美 氏(京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻 バイオメディカルデータサイエンス分野 准教授)は、「DBをどう維持していくかは常に議論をしています。一元化して終わりではなく、国が整備したうえで誰もが活用できるような仕組みを考える人材が不足していることから、その背景にある法律なども学びながら、データをどう使うかだけでなく、どう操るのかも含めて人材を育成していく必要があります」と述べられました。また、情報を使う側の立場として、創薬バイオテック企業の池浦義典氏(Axcelead Drug Discovery Partners株式会社 代表取締役社長)からは、「現状、それぞれ分断してデータは捉えられており、統合したデータ構築はできていない。①データを取得する役割、②データを管理する役割、③データを使える状態にする、サービスにする役割という3つのプレーヤーがいるとすると、①の取得はまさに臨床現場であり、②のデータの管理は国ベースでやっていただくのがいいのではないか。この①と②が整ってくると、③の情報化するところがまさにビジネスになり、医療や創薬において、効果的にその結果が反映されていくのではないかと考えます」と、より統合されたDB構築の重要性を述べられました。

最後に今回モデレーターを務めた小柳氏から、「製薬企業は、創薬をする会社からヘルスケアプレーヤーに変化している中で、データの活用や共有化を進めることによって、開発スピードと競争力をあげることができます。こういった新しい取り組みでは、はやり人と人のつながりが重要になるので、領域横断的に課題感を共有し学ぶことができるような場はとても重要です。今後は『つなぐ、つながる』をキーワードとして、横のつながりを強めていきながら、引き続き皆さんと一緒に考えていけたらと思います」と、締めくくりました。

◆当日のセッションを振り返って

今回の5つのセッションでは、ライフサイエンスに関する様々なプレーヤーの方々にご登壇いただきました。それぞれのテーマで大変学びの深いセッションになったことは大きな成果だと言えます。”エコシステム”というと抽象的で大きなものをを想像されるかもしれませんが、どの領域も、仕事の内外も含めて、どれだけ太い人と人のつながりが作れるかということが重要になってくる、というのは各セッションに共通したメッセージでした。今後、個々の特徴的な活動が益々洗練されていくと共に、EMARGENCEに関わる各個人の連携が生まれていく未来を楽しみにしています。

来る10月21日(木) 17:00–18:00にはEMERGENCEのトークセッションシリーズ第10回を開催します。当日は「皮膚から考えるイノベーションの可能性 2021」と題して、CIC Tokyo/オンラインにて実施します。ぜひ、奮ってご参加ください。
https://calendar.time.ly/eximz1s6/event/67932866

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